裏・極道恋事情

11 幼き胸にあたためし想い メリークリスマスイヴ



 十二月――。
 師走に入ると汐留のダイニングにはクリスマスツリーがお目見えする。家令の真田が毎年趣向を凝らして飾り付けてくれるものだ。
「真田さん、今年も飾ってくださったんだぁ。綺麗だなぁ」
 夜、周が風呂に入ったのを見届けると、冰はこっそりダイニングへと向かった。目的はツリーに秘密の飾りをひとつ足す為である。
 それは言われなければ分からないほんの小さな飾り――絹地で出来た柊の葉っぱのオーナメントだ。ツリーの葉に隠すようにして目立たない箇所にそれを括り付けると、湯上がりの頬をポッと染めた。
「ふふ、今年も飾れた。俺の宝物――」
 そっと大切に触れながら、瞳を閉じて祈るように手を合わせる。まるで今年も一年間ありがとうとでもいうようにして柊の葉に口づけると、またこっそり何事もなかったかのように部屋へと戻った。
 周はまだシャワー中のようだ。しばらくすると水栓を閉める音がして、彼が上がったのが分かった。
「お湯沸かしておこうっと! 白龍は熱々が好きだもんね」
 風呂上がりには二人で紹興酒を飲みながらソファで寛ぐのが習慣となっているのだ。
 しばしの後、バスローブを羽織った周がリビングへとやって来る頃には、淹れたての紹興酒の出来上がりだ。
「お! いつもすまんな」
 湯気の立つ紹興酒に気がついた周がソファへと腰掛けがてらクシャクシャっと髪を撫でてくれる。冰はこの瞬間がとても好きだった。晩御飯が済んで風呂上がりの一杯を共に傾ける時間は、夫婦水入らずのまったりとした瞬間だ。
 風呂は一緒に入る時もあれば、今日のように手の空いた方から順番で入ってしまうこともある。家庭と仕事、年がら年中一緒にいる機会が多い二人なので、『常に一緒にお風呂』でなくともいいのだ。
 しばしたわいのないおしゃべりを交わしながら夜のニュース番組などを見流して、紹興酒を飲み終えるとベッドへ向かう。ローブを脱ぎ、互いに上半身は生まれたままの姿になって羽布団へと潜り込む。真冬でも暖房の効いた部屋は暖かく、何より周の広い胸にすっぽりと抱き包まれながら眠るので、まったく寒くはないのだ。
「もう師走か――。早えもんだな」
「そうだねー。俺がここで住まわせてもらってから三年だもんね。ほんと早いー」
「三年か――。何だか昨日のことのようにも思えるがな」
 そんな台詞が出ること自体、俺も歳を取ったなと笑う男前の笑顔にも頬が染まる。
「白龍、大好き――!」
「ああ、俺もだ。ゆっくり休めよ」
 額にキスを落とされ、クイと頭ごと抱え込まれて眠りに落ちる。そんな何気ない毎日の一瞬一瞬が二人にとって至福の瞬間だった。

 翌朝、軽く身支度を整えてダイニングに顔を出すと、冰は真っ先にツリーへと向かい、昨夜こっそりと葉の陰に隠した秘密のオーナメントを確認した。
「おはよ! 今日も一日がんばるね」
 まるで愛しい者に話し掛けるようにニコニコと幸せな視線を向ける。そんな彼の横顔を、昇ったばかりの真冬の朝陽がキラキラと照らしていた。
 周はそれより少し遅れてダイニングへとやって来た。どうやら自室の奥にある書斎に用があったようだ。
 十二月に入り、ダイニングに真田が飾ったツリーがお目見えすると、周もまた決まって朝一番に書斎へと向かう。テーブルの一番上、鍵付きの引き出しを開いては毎朝同じ物を手に取って眺めるのだ。
 それは少しばかり年季の入った小さな封筒――。その中に収められたカードを取り出しては瞳をゆるめ、
「可愛いことだ。今日も一日見守っていてくれ」
 そう言って軽くキスをする。カードをしまい、鍵をかけ、その後ダイニングへと向かう。
 周も冰も互いに伝え合っていない儀式のようなものをこうして密かに行なっているのだ。
 といっても年がら年中というわけではない。
 十二月という特別な月の間だけ、二人が二人ともこっそりと行なっている不思議な習慣なのだ。
 仲睦まじい夫婦がなぜ互いにも内緒でこんなことをしているかというと、それは十五年ほど前の十二月に話がさかのぼる。当時周は二十歳になったばかりで大学に通う学生だった。冰は九歳ほどで、ちょうど秋期の授業が終わり冬休みに入った頃だ。
 それはクリスマスイヴの夕方のこと――。
 冰が友達と公園で遊んだ後、帰宅すると、黄老人がクリスマスのチキンを焼いて待っていてくれた。
「じいちゃん、ただいまぁ! 遅くなっちゃった」
「おう、おかえり。ちょうどチキンが焼けたところだよ」
 美味しそうな匂いにお腹の虫が鳴りそうだ。ふとテーブルに視線をやると、見たこともないような大きな箱――一目でプレゼントだと分かる豪華な包みにはこれまた太い真っ赤なリボンが掛けられていて、幼い冰は期待に胸を逸らせた。
「じいちゃん……サンタさんもう来たの?」
 しきじきと箱を眺めるようにテーブルの周りをグルグルと回りながら冰が訊く。
「ほほ! そうさ。さっきな、お前さんが帰って来るほんのちょっと前じゃった。漆黒のサンタさんがお前にと言って届けてくれたんじゃよ」

 漆黒のサンタさん――

 その言葉に冰はハッと瞳を見開いた。
「もしかして……あのお兄さんが来たの?」
 漆黒の――といえば、冰にとって思い浮かぶのはこの世で唯一人だ。その年の初め頃、チンピラ連中に拐われそうになっていたところを助けてくれた、忘れられないその人――だ。
「あのお兄さんが……。ああー、どうして僕ってば遊びに出掛けたりしてたんだろ……! お家に居ればよかった! そうしたらお兄さんに会えたのに」
 冰はほとほと後悔しているといった顔つきで、地団駄を踏んでいた。
「あのお方がお前によろしくと言っておったぞ」
「お兄さんが? ああーん、もう! 僕のバカバカバカッ!」
 冰は漆黒の男と会えなかったことが残念で残念で堪らないようだった。
「まあとにかく――そう悔やんでおっても始まらん。あのお方にはまたいつかお会いできる機会も巡って来ようて」
 それよりいただいたプレゼントを開けてみろと言われて、冰は椅子によじ登り、真っ赤なリボンを解き始めた。
「すごい綺麗なおリボン……。解いちゃうのもったいないよぉ」
 さりとて何が入っているのか気になって仕方がない。覚悟を決めて丁寧に丁寧にリボンを解いていった。
 そっと蓋を開ければ、中から出てきたのはこれまた目を剥くほどに豪華なホールケーキ――。
「う……っわぁ……! ケ、ケーキ! じいちゃん、見て! こんなに大っきなケーキ……」
 幼い冰には初めて見るほどのゴージャスなケーキだ。黄老人とたまに買ってくるのはカットされた小さなショートケーキだったので、丸型のこんな立派な物は見たことがなかったのだ。老人もまた、その豪華さに驚いていた。
「ふぉおおお、本当にすごいケーキじゃの!」
 ホールケーキは真っ白な生クリームでデコレートされていて、粒のままの大きな苺の他にはラズベリーの実がスポンジの間にもケーキのてっぺんにもたんまりと散りばめられている。その真ん中にはとても綺麗な柊の葉っぱが飾られていた。銀色に光るワイヤーで出来た柊の葉の形の上から透けるグリーンの布が張ってあり、葉の所々に金糸が縫い込まれているのか、キッチンの電灯に照らされてキラキラと光っているのがとても美しい。
「葉っぱだ……。綺麗だなぁ。キラキラしてる」
「おや、絹じゃな。絹で出来た柊のオーナメントじゃ」
「絹?」
「そう。シルクじゃ。これだけでもたいそう手の込んだ貴重な代物じゃぞ」
 老人がスープの入った鍋をテーブルに置いてしきじきと眺めている。
「オーナメント……っていうの、これ?」
「そうじゃ。クリスマスツリーに飾れるように紐が付いておろうが」
「あ、ほんとだ!」
 とはいえ、実際に飾るには小さな代物だが、オーナメントに見立てたミニ版といったところか。冰は壊さないようにと思うのか、恐る恐るといったふうにそれを掴み上げると、電灯に翳し眺めては頬を染めた。
 チョコレートで出来たプレートには英語でMerry Christmas for HYOと記されていた。
「す、すごい……すごい! これをあのお兄さんが……」

 僕の為に――?

 そう思ったら嬉し過ぎて、思わずポロポロと涙があふれ出してしまった。
「お兄さん、ありがとうございます。僕……僕、今日会えなかったのは残念だけど、とっても嬉しいです!」
 そう言って涙を拭う。
「じいちゃん、この柊の葉っぱ――僕が貰ってもいい?」
「もちろんじゃ。大事にとっておおき」
「やった! ありがとう、じいちゃん!」
 一生の宝物――! と言って冰は再び頬を染めた。
「有り難いことよの。あのような立派なお立場のお方が――我々なんぞの為に」
 食事の支度を整え終えた老人もまた、ケーキを前に丁寧に手を合わせては、感謝の祈りを捧げたのだった。

 その後、冰はケーキのお礼に手紙を贈ることを思いついた。
「ねえ、じいちゃん。漆黒のお兄さんにお手紙書きたい……。どうやって届ければいいか分かんないけど、でもどうしてもお礼が言いたいの」
 黄老人は着くかどうかは約束できないが、手紙を出してみる自体は悪くないと言ってくれた。老人は永いことカジノのディーラーで生計を立ててきた身だ。裏の世界にも多少の伝手はある。この香港を治める周一族が構えている組織の住所も知っている。そこ宛てに送れば、あるいは目に留まる可能性もあるかも知れないと思ったのだ。
「冰、この手紙が漆黒のサンタさんに届くかどうかは何とも言えん。あの御方が住んでいらっしゃるのはとても大きなお邸なのでな。住んでいる人もたくさんいて、だから万が一あの御方に届けば運が良い――くらいに思っておくしかないが、それでもいいならじいちゃんが出しておいてやろう」
「お手紙……届かないかも知れないの?」
 冰は残念そうにしていたが、それでもその『万が一』に期待を馳せて一生懸命に自分の気持ちを綴った。
 老人が小綺麗なクリスマスカードのセットを買ってくれたので、間違えないように一字一字丁寧にしたためる。

 お兄さん、とっても素敵なプレゼントをありがとうございます。
 僕はすごくすごく嬉しかったです。
 ケーキについていた柊の葉っぱをお兄さんだと思って、ずっとずっと大切にします。雪吹冰

 幼い子供の字で、一生懸命に書いたのが分かる心のこもったカード。
 老人と少年が『万が一にも届きますように』と願いを込めて投函したそのカードは、無事に漆黒の男の手に届いたのだろう。彼と共に香港を後にし、東京の汐留へと渡り、十五年経った今でも書斎の――それも鍵付きの引き出しに大事にしまわれていたのだった。
 遠い日に少年が大切にすると言った柊のオーナメントは、同じ汐留の隣の部屋でこっそりとツリーに飾られている。
 互いにもう覚えてはいないだろうと思っているオーナメントとカードは、こんなに近くでそれぞれ大事に大切にされ続けているのだった。

 もしもオーナメントとカードに心が宿り、言葉を発することができたなら、二人に伝えたいと思うのではないだろうか。
 あの時あなたが贈ってくれた『僕たち』は、今もこうして大事にされているんだよ――と。

 いつの日か、互いが互いに寄せるこの秘密の気持ちに――気付く時が来るだろうか。それは意外にも近い未来か、あるいはもう何年も何十年も先かも知れない。
 古くなってオーナメントの絹がほつれても、色褪せてカードの文字が滲んだとしても、互いの想いは出会ったあの頃からずっとずっと――大事にあたためられながら永遠に育まれていくのだということを――。



◆--------------------◇--------------------◆



 後日談。
 師走も半ばに差し掛かったその日、夕飯が済むと周は家令の真田に呼び止められた。
「坊っちゃま、坊っちゃま! ちょっと――」
 冰が先に部屋へと戻って行く後ろ姿を見届けながら、ツリーの陰でこっそりと手招きをする。不思議顔でそちらに歩を進めると、真田はこれ以上ないくらいに目を細めながら微笑んでみせた。そして、まるで『しー、静かに!』とでも言いたげに声をひそめて一箇所を指差す。
「ご覧ください。こちらでございます――」

「――どうした?」

 ツリーの葉の陰に埋もれるようにしてこっそりと取り付けられていたそれを見た瞬間に、周は大きく瞳を見開いてしまった。

「これ――」

 真田は未だ目を細めながらコクコクとうなずいては、心躍るように言った。
「冰さんが毎朝ツリーに向かって何やら話し掛けていらっしゃるのを幾度か目にいたしましてな」
 最初は単なる朝の挨拶程度に思っていたのだそうだ。ところが毎朝必ずツリーの葉をそっと掻き分けるようにしてひと言二言何かを言っている様子が気になって、ある日こっそりと聞き耳を立ててしまったのだそうだ。
「――冰は何と言っていたんだ」
「ええ、それが――おはようとか、今日も一日がんばってくるねとか。たわいのないお言葉なのですが、その時の冰さんのお顔がとても幸せそうに思えましてな。いったい何に向かって話し掛けていらっしゃるのやらと、つい好奇心をくすぐられてしまいまして……」
 彼が出勤後にそっと確かめたところ、この小さなオーナメントを見つけたのだそうだ。
「私めは覚えておりましたぞ。あの日――十五年前のクリスマスイブに坊っちゃまが幼かった冰さんの為にお選びになったケーキ。このオーナメントはケーキに飾るのだとおっしゃって坊っちゃまが特注でオーダーなされたものでしたな」
 十五年前、真田は周に頼まれて一緒にケーキを選びにお供をしたのだった。
「あいつ……まさかこんなものをまだ持っていたというのか」
「あの後、小さかった冰さんからお礼のクリスマスカードが送られてきましたな。ずっと大切にすると書かれてあったとか」
「ああ……確かに」
 誠、その言葉の通りに冰は今でもこれを大事に持っていてくれたというわけか――。
 変な話だが、あの時選んだケーキについていた柊の飾りはプラスチックで出来た特には何の変哲もないものだった。それでは味気ないと思い、行きつけの洋装店に頼んで特別にこしらえたミニ・オーナメントだった。とはいえ、特に宝飾品などの高価な物でオーダーしたわけでもなく、少し見栄えがいい程度の代物。飾りは飾りは過ぎないので、ケーキを食べ終えたら箱と一緒に捨てられてしまって当然とも思っていた。まさか十五年経った今でもこうして手元で大事にしてくれていたなどとは思いもよらなかったのだ。思わず胸が締め付けられるほどの感激に襲われて、周はしばし言葉にならないままツリーの前で立ち尽くしてしまった。

 そして数日後、クリスマスイヴの夜のことだ。
「明日はクリスマスかぁ。このツリーともまた来年までお別れだね」
 二十五日を過ぎるとツリーはしまわれる。冰がここ汐留へやって来てからクリスマスを迎えるのは幾度目になるだろう。毎年名残惜しそうにツリーの前に立っては、『また来年ね』と声を掛けている姿は周もよく知っていた。
 思えば真田がリビングにクリスマスツリーを飾ったのは初めて冰を抱いた次の日だった。周にしてみれば単にその時の思い出と重なるからクリスマスツリーには格別の想いを抱いていてくれるのかと思っていたのだが、実はそれだけではなかったわけだ。
 十五年も前に贈ったクリスマスのケーキ、それは周が初めて冰へとプレゼントしたものだった。おそらくはその時のことを思い出すからなのか、冰にとってクリスマスというのは特別な思い入れのある日なのかも知れない。
 こうして共に暮らすようになり、互いの気持ちを打ち明け合った今なお、彼はその頃からの想いを大切にしてくれているのだと思うと、どうしようもないくらいに愛しさが込み上げて堪らなくなる。
 ツリーの前に佇んでいる彼の背中からそっと近付き、そのすべてを包み込むべく抱き包んだ。
「メリークリスマス、冰」
「白龍!」
 冰は突然のことに驚いたようにして瞳を見開き、だがすぐに満面の笑みで応えてくれた。
「メリークリスマス、白龍!」
 そんな彼の目の前にクリスマスカラーでデコレートされたプレゼントの箱を差し出す。
「俺からのクリスマスプレゼントだ。開けてみてくれ」
「え……! うわぁ、ありがとう白龍!」
 冰は大感激の様子でリボンを解き――、中を見てますます瞳を見開いた。
「うわぁ、綺麗なボックス。これ、宝石箱?」
 大きさ的には両手に乗るくらいの――宝石箱としては小さめの物だが、そのデザインが感動的だった。
 形はシンプルで、真っ白な代理石調のツルツルとしたボックス。蓋の部分はクリアなガラスかアクリル製だろうか、透明で中が見えるようになっている。小さな鍵も付いていて、ボックスの背面には置物としてはもちろん、壁掛けとしても使用できるように金具が取り付けてあった。
 そして、何といってもそのデザインだ。鍵穴の上の部分には光るダイヤモンドだろうか、透明の石がはめ込まれていて、鍵の方には真っ赤な宝石――おそらくはガーネットだ。
「白龍……これ……」
「お前の心を開けるのは俺という鍵だ。そんな想いを込めて作ってもらった」
 例の宝飾店でオーダーしたのだろう、未だ後ろから抱きすめながら周はスリスリと頬擦りをしてよこした。
「なんて素敵なプレゼント……! 白龍……ありがとう。本当に俺……」
 じわり、瞳を潤ませながら冰は感激に声を震わせた。こんなに素敵なジュエリーボックスだ、何を入れようと早速思い描いている姿が可愛らしい。
「宝物はたくさんあるからね。白龍に買ってもらったお揃いのカフスとか……。他にも――」
 入れたい物はたくさんあるなぁと言いながら頬を染めている。
「冰――それに入れるものはもう決まっているんだ」
「え――?」
「俺とお前がいっとう大事にしているものだ」
 そう言うと、周はボックスを開けて一枚のカードを差し入れた。
「俺の宝物はこれだ」

 ――――!

 少し古めかしい、小さな一枚のカード。それを目にした瞬間に、感激に潤んでいた冰の瞳からはボロボロと滝のような涙の雫がこぼれて落ちた。
「これ……もしかして」
「そうだ。あの年のクリスマスに幼かったお前が贈ってくれたカードだ」
「白……」
 まさかまだ持っていてくれたの?
 というよりも、ちゃんと届いていたんだという思いもあったのだろう、様々な気持ちが入り混じり、あふれ出して言葉にならない。冰は両の手で顔を覆って号泣してしまった。
 そんな愛し過ぎる彼の肩を抱き締めて、周は言った。
「お前のはそのツリーに飾ってくれている――これ」
 葉を掻き分けて、小さな柊のオーナメントを指差した周に、ますますとまらない涙の粒、粒、粒――。
「白……龍……知って……知って……」

 知っていたの? と、言葉にならないほどに泣き濡れながら冰はあまりの至福に身を震わせた。

「気がついたのは――情けないことだがほんの最近だった。真田が先に気付いたんだ」
「……っう、白龍……そうだったの、真田さんが」
「十五年前、お前に届けたケーキもな。真田に付き合ってもらって選んだものだった。ヤツはそれを覚えていてな。幼かったお前からこの可愛らしいカードが届いた時も、真田が一目散に俺のところへ持って走って来たものだ」
 まさかカードに書かれていた通り、本当にずっと大切にしてくれていたとは思いもよらなかったと、周もまた感激で言葉にならなかったのだと言った。
「もう三年以上も一緒に住んでいながら今まで気付かずにいたとはな。だが――本当に嬉しかった。身体が震えるほどに――嬉しくて堪らなかった」
 周もまた、わずかに声を震わせながらそう言った。きつくきつく、腕の中に抱き締め頬擦りを繰り返しながらそう言った。

 ありがとう、白龍――! ありがとう!

 涙で声にならない愛しい者を抱き締める。そのあたたかさはまさに何ものにも変え難い至福だった。

 俺たちは――出逢った頃からずっと互いを想い合ってきたのだな。
 会えなかった時間も、遠く離れた場所でも、常に気持ちは同じだった。魂と魂が惹かれ合い、思いやり合って、本当の意味での一心同体の恋人、家族、そして夫婦となった今、愛しくて幸せで堪らない。
 これからもずっと、ずっと永久に手を取り合っていこう――!

 クリスマスイヴの夜、またひとつ強く結ばれ合った絆を胸に抱き、二人、身も心もひとつになったのだった。

- FIN -



Guys 9love

INDEX