かぼちゃあんどん



「なぁ、これで両腕くくっていい? てか、口も塞いで……い?」
 ガムテを引っ張りながら興奮気味にヤツが俺を見下ろしてる。
「はぁッ!? バッ、そこまでするかヘンタイっ!」
「だよな? じゃ、手だけにしとく」
 ちょっとガッカリしながら、それでも初めてのことに心臓をバクつかせてやがるのか、時折僅かに手元を震わせながらテープが巻きつけられていく。
 両腕を頭上にくくられてみれば、味わったこともないような気持ちがこみ上げた。
 それはとてつもなくいやらしくて淫らで、背筋が疼くなんてもんじゃない。
 文字通り、コイツにめちゃくちゃに犯されたいなんていう思いがよぎって、俺は少々焦った。
 こんなことをされて悦んでいる自分が信じられない。
 俺を見下ろすヤツの瞳も、見たこともないくらい淫らに思える気がして、堪らない思いに鳥肌が立った。
「な、やっぱ……外、出るか?」
「な……んで……ッ?」
「だって、ココじゃマズくねえ? こんなことしてんのがバレたらさ?」
 確かにそうだ。
 下半身はマッパで、上は破れたシャツが脱げ掛かり、ガムテで手を縛られた上に、野郎が腹の上に馬乗りになってる所なんざ、誰かに見られたらたまったもんじゃない。お袋が見たら、それこそ腰を抜かして卒倒するだろう。
 だが正直なところ、反面、このスリル感もたまらなかった。
 バレるかバレないかギリギリの焦燥感がいいなんて、俺ってやっぱりどうしょうもないヘンタイだろうか。
「何……今更ッ、……はっ……ぁっ」
「この部屋……鍵、掛かってるっけ?」
「……ん、あぁッ……平気、ちゃんと掛けてある……ッ」
 そもそもこんな状態で出掛けんのなんか無理だろう?
 余裕の無えツラで、今更ラブホにでも行こうなんて匂わせてたって、それこそ反則だ。
 そんなことよりコイツの切羽詰まった表情が堪らない。
 エロいことで頭がいっぱいなこのツラを見ているだけで持っていかれそうになって、全身がゾクゾクと震えた。
 そんな俺の高まりを知ってか知らずか、
「今まで黙ってたけどさー、俺、こーゆーのちょっと夢だったんだよな」
 荒い吐息を飲み込むようにヤツは言った。
「――は?」
「んー、暴露しちまうとさ、マスかく時にいっつもこんなシチュを想像しながらヤってた……なんつったら引く?」
「……ッ、こんなシチュって……何?」
「え……? だからその……お前ンこと、めちゃめちゃにするシチュっての?」
 逸った台詞と同時に、つぅ、と腹の筋をなぞられて思わずのけぞった。
 この野郎、冷めた顔しながらそんなことを考えてやがったのかと思うだけで再び全身が熱を持つ。
「何、ヘンタイみてえなこと抜かしてんだバカッ……! 普段はすっげースカしてるくせによ」
 思わず憎まれ口がついて出る。
 ヤツは照れ隠しでもするようにニヤッと笑うと、
「やっぱ俺、ヘンタイ? だよな? イく時、お前のツラにぶっかけてみてえとか想像したりさ……」
「はぁッ……!? 何ソレ……」
 俺の顔面にブッかける想像をしながら独りで抜いてるコイツの姿が頭の中にブワッと映像付きで浮かんだ瞬間に、堪らない射精感に襲われた。それを煽るように次々と発せられる艶っぽい声音にも、ヤられそうだ。
「自分でもおかしいんじゃねえかって、たまに思うよ。めちゃめちゃになったお前に興奮してるてめえの姿、想像しながらイくなんてさ。マジで俺、ヘンタイ通り越してアブネーんじゃねえかって……ッ」
 台詞がきわどくなるごとに、ケツの奥深くまで乱暴に突き上げられて、もう我慢の限界、意識までもがもっていかれそうになった。
「……ッや……べえって、バカ! イっ…ちまう……ッ!」
「え!? 何、ちょい待ち、なら俺も……ッ」
 そんな言葉が耳元をかすめた気がしたが、実際待ってなどいられなくて、気付けば俺は自覚のないままに腹の上へと熱を放っていた。
 なんてこった! カッコ悪ィ――
 余裕のかけらもないことを露呈してしまったようで、恥ずかしくて視線が泳ぐ。
 だがコイツもそろそろ限界のようで、突如乱暴に腰を掴まれたと思ったら、激しいピストンにベッドが軋んで揺れた。

「は……ッ……!」

 低くてエロい、押し殺したような声と共に、腹の上に生温っかい感覚が飛んでくる。
 ふと、それを指でなぞれば、独特のヌメリと軋むような感覚が、またすぐにも欲情を煽る。
 とりあえず達ったことで我に返ったのか、荒い呼吸を整えながら、バツの悪そうにヤツが俺を見つめた。
「ごめっ……俺んこと、嫌いんなった……? こんなエロヘンタイはもう御免だって」
「――思わねえよ」
「え――――?」
 だって俺も同じだからさ。
 俺ら、お互いに腹の中じゃ似たようなこと考えてんだって思ったら、急に可笑しくなってきて、俺は目の前の肩先を抱き寄せた。
「同じ。俺もお前とぐっちゃぐっちゃになりてえって、いっつもそんなことばっか考えてた」
 このままもっともっと深く絡め合わせたい。
 もっともっと、おかしくなるくらい強烈に激しくオマエと繋がりたい。
 窓の外を見上げれば橙色の三日月が秋空高くに浮かんでいた。



◇    ◇    ◇



「あー、なんか眠くなってきちまった……。今日、このまま泊まってっちまおうかなー?」

 マジかよ――?

 俺はうれしさに浮足立ちながらも、またまたクールを気取って、『好きにしろよ』なんてぶっきらぼうに言ってのけてる。
 ヤツは満足そうに唇の端をひん曲げながら、
「ふぅん、なら泊まっちゃおうっと。なんせ今日、珍しく張り切ったからな? 疲れちってさぁー」
 なんて、余裕ブッこいてやがるのが憎たらしい。
「その前にコレ拭こーぜ。腹がヌルヌルして気持ち悪ィ……」
「やーらしいな、エロ汁まみれ!」
「どっちがよ!」

 てめえが――だろ?
 いや、イった数だけなら俺の方が上か。
 なんだかいろいろ悩んだのがバカらしくなって、心地よく伸びをする。
 隣で寝転がる『汗と香水と煙草』の入りまじった胸板に顔を押し付けながら、俺は夢見心地で目を閉じた。

- FIN -



Guys 9love

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