清楚で淫らな俺のヒト
「嫌がるわりに何回達ったんだ帝斗? この淫乱が――」
「あ……はっ……ぁ……白夜……白夜さま……」
「まだ息があがってる。そんなに悦かったのか?」
「んっ、んんっ……」
「は、たまらんな! こんなんじゃこっちの身が持たないって。いくらお前の身体がよくっても、俺だって年がら年中暇ってわけじゃない。仕事も山と抱えてる。お前にばっかりかまけてないで、たまには女連中も相手にしてやらなきゃスネてしまうしな? 知ってるだろ、俺の婚約者候補の女どもが連日押しかけて来てるって」
「あ……白夜……やめ……て……そんな話、今は聞きたくない……お願いだからやめて……」
「ふ――、お前って性質まで女並みに可愛いのな? そんな純情なこと言われると又欲しくなってくる」
「白夜……さま……」
「だが正直体力の限界だぜ。明日も早くから仕事にがんじがらめなんだよ。だから代わりって訳じゃないんだが……紫月を相手にするというのはどうだ?」
えっ――――!?
「弟の紫月だよ。お前が勉強教えてる俺のふがいない弟くん! 代わりにあいつに抱いてもらったらどうだ? ヤツはまだ若いし欲求もみなぎってるから、何度でも没頭出来るだろう。幸い顔の造りだけは俺によく似てる。頭のデキはともかくとしても、案外コッチの方は俺以上かも知れないぜ? 若い分だけ激しいだろうし、ヤリたい盛りだから逆にお前が音を上げるまで嬲ってくれるだろう」
「なっ……っ!? お戯れをっ……! そんな大それたことをっ……」
「別にふざけちゃいないさ。俺は現実を言ってるんだからな。それに俺の勘が正しければ、ヤツはお前に密かな想いを抱いてる。いつも夕卓でお前をチラチラ見ていやがるからな。あれは絶対に恋慕の視線だぜ。お前、あいつに勉強教えてて気がつかなかった? それとも年下は趣味じゃないとか?」
「白夜さまっ……」
◇ ◇ ◇
その後どうやって帰ったのか記憶は定かでなかったが、気づけば紫月は自身のベッドの上にいた。
呆然と天井を見上げる瞳にはまるで何も映ってはいないようで――
無気力のままに朝を迎え、無気力のまま三日が過ぎた。
兄の白夜は仕事が忙しいらしく、このところは家を空けているのか、夕卓でも顔を合わすことはなかった。
忙しい父も同様だ。病弱な母は夕卓には出て来ない。
紫月は殆ど自室に篭り、密やかな食事時には使用人だけに囲まれながら覇気のない日々を過ごしていた。
そして今日は帝斗が勉強を見てくれる予定の日だ。
あの隠れ小屋でのこと以来、帝斗も食事には顔を出さずにいて、広大な邸の中ではすれ違うことも稀であった。
足音が近づいてくる――――
いつものように帝斗がこの部屋へやって来る。
ノートを抱え、教本を抱え、穏やかな雰囲気を纏ってドアを開ける。
プレスのきいた白いシャツを清楚に着こなしながら、にこやかに挨拶をしてくる彼の人を見た瞬間に、紫月の中で何かが弾けた。
今までの従順な思いも、
兄のように慕っていた感情も、
秘めやかな恋慕の気持ちも何もかもが事切れた糸のよう――
見せ掛けをそのままに表した白いシャツの清楚さが、より一層加虐心に火を点けた。
有無を言わさずに彼の華奢な肩先を掴み取り、乱暴に引きずるようにして部屋の奥へと連れて行くと、驚きで瞳を丸くしている帝斗の身体をベッド上へと放り投げた。
「紫月くんっ!? 何をっ……!?」
こんなことをされても淫猥な疑いのひとつも持たないような表情で真剣に驚いているだけの彼を見下ろしながら、紫月の中には残酷な感情が生まれようとしていた。
目の前の清楚そうな白いシャツを引き裂いて、
そうされて驚き叫ぶ彼の声、
表情、
逃げ惑い抵抗するだろう仕草が瞬時に頭の中を駆け巡る。
めちゃくちゃにしてやりたい――
あんな冷淡な兄に陵辱されて悦んでいたこのヒトを泣かせて、叫ばせて、ぐちゃぐちゃに乱してやりたい。
抵抗など最初の内だけで、どうせすぐに淫らに啼き出すのだろう?
そう、あの夜のように自ら腰を浮かせ、律動を望み、欲情の吐息を漏らすのだろう?
気づけば華奢な肩ごと乱暴に組み敷く自身の姿がベッド脇の鏡へと映り込み――
そこにはあの夜の兄、白夜によく似た面差しの冷淡で淫猥な男の顔が映し出されていた。
- FIN -