番格恋事情
その頃、冰は叔父と川西が回した手の者によって無理矢理さらわれる形で、川西の別邸に連れて来られていた。まさに氷川の読んだ通りである。
一軒家ではあるが、周囲を高い塀で囲まれていて、その上、背の高い木々も植樹されており、外からは中の様子が窺えないような造りの邸であった。
氷川邸と比べれば、大して広いとはいえない応接間は、昼間だというのに灯りを入れなければ薄暗いような部屋だ。これも高い植樹のせいなのだろう。
その中央に置かれたソファには、ドカりと腰掛けた中年のでっぷりとした男――彼が川西なのだろうということは、訊かずとも理解できた。その彼の機嫌を窺うような形で遠慮がちに立っているのが叔父である。普段は横柄な叔父も、この川西という男には頭が上がらないのだろう、先程からモソモソと所在なさげにしている様子からしても、それは明らかである。
その二人に従うようにして周囲には屈強な面持ちの男が二人――。彼らは楼蘭学園で冰を拉致してここまで連れて来た男たちであった。風貌からして、とても一般人には思えない。恐らくは川西の息が掛かった裏社会の連中なのだろう。そんな男たちを前にして、冰は今にも心臓が飛び出そうな思いでいた。
と、呆れたような口ぶりで第一声を発したのは叔父であった。
「まったく! 家にも帰らないで雲隠れなんぞしやがって! お前を捜すのにどれだけの思いをしたと思っていやがるんだ! とんだ手間を掛けさせやがる!」
吐き捨てるようにそう言うと同時に、川西という男に向かってへりくだるように、叔父が愛想笑いをする。その川西はといえば、冰の容姿が相当気に入ったらしく、先程から満足げに下卑た笑いを携えていて、機嫌の良さそうにしている。冰を小馬鹿にする叔父のことさえ制するように、「まあまあ……」と言っては宥めているような調子だ。
一見、人の好さそうに見えるが、その笑顔の裏にどす黒いものが渦巻いているようで、冰は肝が縮む心地がしていた。
「とにかくは冰、お前は今日からこちらの川西様のお宅で暮らすんだ。本来だったら一ヶ月も前にそうすべきお約束をしていたというのに……お前ときたら、平気で反故にしようとしてくれて……! 本当にふざけた甥だよ。その分、川西の社長様によーく躾直していただくんだな」
叔父はまたもや汚い言葉でそう詰ると、川西に向かって『後はお好きにしてください』といったふうに平身低頭で愛想笑いを繰り返す。
「では社長、私はこれで――。甥のことをよろしくお頼み申します」
そう言うと同時に、逸った様子で床にあったアタッシュケースを手にし、そそくさとこの場を後にしようとした。冰はそれを目で追いながら、恐らくはそのケースの中身は現金なのだろうと思い、ギュッと唇を噛み締めた。
「叔父さん、待ってください!」
冰は思い切って――という表情で叔父を引き留めると、川西も含めたこの場の全員に向かって言った。
「……僕は……こちらで暮らすつもりはありません――」
冰のひと言に、叔父の方は滅法驚いたといったふうに眉根を寄せると、途端に険しく表情を歪めながら「何だと!?」そう叫んだ。
冰は一瞬ひるんだようにビクッと肩を竦め――だが、すぐに震える声を抑えながらも自らの気持ちを懸命に言葉にしてみせる。
「……雪吹は……粟津財閥の傘下になったことで倒産は免れました。ですから……もう僕がこちらでお世話になるというお話はなくなったものと心得ています」
時折声を震わせながらも気丈な様子でそう言い切った冰に、叔父はもとよりその場にいた全員が少々面食らったように目を剥いた。
「こ……このガキ……生意気を抜かすんじゃない! よくもそんなふざけた口がきけたもんだな……!」
叔父は川西の機嫌を損なうのが心底心配なのだろう、額に青筋を立てながらワナワナと声を震わせている。
「だいたい……! お前が粟津財閥の小倅をそそのかしたんだろうがッ!? 粟津なんぞに世話にならなくたって、こっちは社を立て直す算段はちゃんとついていたんだ! この川西様が……雪吹の名を残したままお助けくださると名乗りを上げてくだすったというのに……それをまんまと粟津の傘下なんぞにされおって!」
叔父は頭に血が上ったようにして冰の胸倉を掴み上げると、茹で蛸のように顔を真っ赤にしながら怒鳴り上げた。
「……ッ、何も分からんガキのくせに……出しゃばったマネしやがって! これ以上生意気抜かしやがると承知しねえぞっ!」
掴んでいた胸倉を離すと同時に、叔父は床へと突き飛ばす勢いで冰をド突いた。
「まあまあ、雪吹さん、その辺にしておきなされ」
興奮した叔父を宥めるようにそう言ったのは川西だった。
「冰君といったかね? 随分と気概があるのは結構なことだが――私にも面目というものがあってね。キミの叔父上とはすっかり話がついていたというのに、突然他所の企業に横槍を入れられたお陰で、今や私は世間じゃいい笑いものだ。聞けば粟津財閥というのは、キミのご学友の家だそうじゃないか。キミらが好き勝手してくれたお陰で、潰された我々大人の立場というものも考えて欲しいのだがね」
言葉じりこそ丁寧ではあるが、川西の目は笑っていない。声にも凄みがあり、まるで脅しのようにそう言われて、冰はさすがに身体中に震えが走るのを抑えられなかった。
「……確かに……社長様が社を立て直すお力添えをしてくださるというお話は……叔父から聞いて……存じておりました……。ですが……」
「そう、叔父上とはすっかり話がついていたのだよ。それを何の相談もなく急遽反故にされた私の立場も考えて欲しいものだ。世間の笑いものにされたツケは、キミ自身で払ってもらうしかないんじゃないのか?」
「……そんなっ……」
「キミだってもう高校も三年生だ。そのくらい分からん歳じゃないだろう」
「……それは……せっかくのご助力をお断りするような形になったことは……申し訳ないと……思っています……。ですが僕は……」
「申し訳ない――で済むようなことじゃないのだがね?」
言葉を交わす毎に、徐々に凄みを増してゆく川西の声色に追い詰められるように、冰は身体中の震えがとめられなくなっていった。
「社長様――とにかく僕は……こちらのお宅でお世話になることはできません。すみませんが、帰らせていただき……」
震えながらも踵を返さんとした冰の行く手を塞いだのは、冰をここへ連れて来た二人組の男の内の一人だった。
「すみません、通してください……!」
「冰君、いい加減に悪あがきは止めたまえ。それに――キミの叔父上とは、既に話がついているのだよ」
川西は冰の叔父の方をチラリと見やると、クイと顎先で叔父の抱えるアタッシュケースを指してみせた。
帰ろうと思えども、目の前には屈強な男が立ちふさがって身動きがとれない。冰は焦りを鎮めようとギュッと拳を握り締めた。
「お金ですか……? その鞄に入っているのはお金ですよね? 叔父さんはお金で僕を売ったということですか!?」
冰は押し潰されそうな気持ちを奮い立たせて、叔父と川西に向かってそう訊いた。すると川西は思いきり小馬鹿にしたようにして、下卑た笑い声を上げた。
「ちゃんと分かっているじゃないか。その通りだよ」
「そんなッ……」
「キミが勝手に粟津財閥とやらに社を売ったんだ。お陰でキミの叔父上は社長の座を追われ、私は笑いものにされた。このツケはキミが払って当然だろうが。それに――キミがあまり物分かりの悪いようなら、叔父上や私だけでなく、他の人々にもご迷惑になると思うのだがね?」
「……他の人って……どういうことですか……?」
まさか、他にも何か理不尽な企てをしようとでもいうわけか。
「まあ、私とてそんなことはしたくはないがね。例えばキミが今住んでいるのは氷川貿易の社長宅だったかね? 氷川家とはどういった繋がりがあるのか知らないが、あのお宅の皆さんにご迷惑を掛けるのは、キミとしても本意ではないだろう?」
ニヤリと口元をひん曲げた川西に、冰はゾッと背筋が寒くなるのを感じた。
「ちゃんと調べはついているんだ。キミがご自宅に帰っていないというから、捜すのに多少苦労させられたがね。粟津家の運転手に送り迎えされて学園に通い、キミ自身は氷川貿易の社長宅で悠々自適の生活かね? 随分といいご身分だね、冰君?」
「……ッ……」
冰はひと言も返せなかった。
確かに、川西の言う通り、氷川や帝斗の厚意に甘えっ放しなのは事実だからだ。
それにつけ込むかのように、川西は更に冰を追い詰めるようなことをツラツラと述べてみせた。
「粟津財閥はともかくとしても、私自身は氷川貿易さんに対しては何の面識もなければ、恨みもない。そんなお宅へ喧嘩を吹っ掛けるつもりも更々ないんだがね。だが、キミがあまりにも聞き分けがないようなら致し方ない――何か手立てを考えなければならないだろうね」
「……脅かすんですか……?」
「何だと?」
「……だって、そうでしょう……粟津さんや氷川さんには関係のないことです……!」
「そうとも。ちゃんと分かっているじゃないか。彼らには関係のないことだ。これはキミと私とキミの叔父上との間での話なのだからね。関係のない人々を巻き込みたくなかったら、素直に言うことを聞いた方が皆の為じゃないかね?」
どうあっても嫌だと言えないように追い詰められてゆく。まだ世間の何たるかを知らない冰を言いくるめるなど、川西らにとっては赤子の手をひねるようなものだった。
言葉に詰まる冰を前に、川西のもうひと言が更なる追い打ちを掛ける――。
「ところで、氷川貿易さんにはキミと同い年のご嫡男がいらっしゃるそうだが――」
「――――!?」
その言葉に、冰はギョッとしたように顔を上げて、川西を振り返った。
「白夜君とかいったか――、彼はキミのお友達かい? 正直なところ、粟津財閥の倅に手を出すのはなかなか難しいところもあるがね。粟津といえば大財閥だし、如何に私とて、易々とは手出しできん。――が、氷川貿易くらいの企業なら話は別だ」
「……何を……ッ、何をなさる気ですか……!」
「聞くところによると、氷川貿易の倅さんってのは、学園でもあまり素行が良い方ではないらしいじゃないか? 街の不良連中を嗾けて、警察沙汰にするくらいならワケもないことなんだよ? 若者同士の小競り合いが原因で、彼を少年院行きになんぞしたくはないだろう?」
「そんな……ッ!」
冰は蒼白となった。
「白夜は関係ないでしょう! 彼に手出しをするのはやめてくれ!」
額には冷や汗、青ざめ震える唇を何とか抑えて、冰は決死といった勢いでそう叫んだ。
「私だって何も好き好んで彼を巻き込みたいわけじゃない。キミさえ素直に言うことを聞けば、白夜君は安泰だ。どうするもキミ次第なんだよ?」
絶対に嫌だと言えないように追い詰める。
「僕が……あなた方に従えば白夜には手は出さないということですか?」
「その通りだ。キミだって事を荒立てたくはないだろう?」
「…………」
「分かったら素直に言うことを聞くことだ」
「――お断りします」
「何――!?」
冰は、キッと川西を見据えると、決意のある声で言い切った。
「例え僕が白夜を救う為にあなたの愛人になったとしても……白夜は喜ばない。だったら僕は白夜と一緒にあなた方に立ち向かうことを選びます」
冰の目は真剣だ。どんな脅しにも揺るがないといった固い意思を伴っているかのようだった。
そうだ、例え氷川を救う為に自分が犠牲になったとしても氷川は喜ばない。
あの春の日に――新学期の番格対決で出会った時の彼の威風堂々とした姿が脳裏に浮かぶ。不良連中の頭と崇められ、桃陵の番格として君臨していた氷川白夜という男の――自分はその彼の唯一無二の恋人なのだ。
例え何があっても互いを裏切らず、互いを信じ、添い遂げる。それが冰にとっての誇りであった。
「僕は逃げません。白夜を裏切ることもしたくない。例えそれが……白夜自身を救う為だと言われようが、あなた方には屈しません。確かに彼は桃陵の番格と言われていて、大人から見れば品行方正とはいえないかも知れない。でも彼は僕にとって何より大事な友人です。彼が不良の番格ならば、僕は姐の立場と思っています。例え何がどうあっても――僕は彼を裏切るようなことはしません」
毅然とした態度でそう言い切った冰に、川西をはじめ、その場の全員が唖然としたように彼を見つめた。
正直なところ、大胆とも受け取れる言葉である。普段の冰にしては有り得ないような発言だが、裏を返せばそれだけ彼にとって今の状況が切羽詰まっているというわけだろう。言葉という”形”にして自らの誇りを己に言い聞かせることで、自分自身を失わないようにと必死だったのかも知れない。
「……は……! 何をバカな! 冰、お前さん、気でも狂ったのか!? 第一、”姐”ってのは何だ! それじゃまるで……お前と氷川の倅は夫婦みてえな言い草じゃねえか!」
叔父がアタッシュケースを抱き締めながらそう罵倒する。それに付け加えるように、川西も冰の胸倉を掴み上げると、
「は……! お前ら、男同士で付き合っているとでも抜かしやがるのか!?」
終ぞ、遠慮なしに言葉じりにも本性を見せながらそう訊いた。
「……いけませんか? 僕は……恥じることなどしていません! 大事なものを大事だと言って何が悪いんですか!」
「は――! とんでもねえガキだな……。雪吹さん、正直私は耳を疑ったがね」
川西は冰の叔父に対して吐き捨てるように言うと、こう付け加えた。
「まあ、それならそれで構わん。どうやら甥御さんは既に男の味を知っているようだし――私としても猫を被らずともいいというわけだ。せっかく……少しは丁寧に扱ってやろうと思っていたが……もうその必要もねえってことだ」
川西は掴んでいた冰の胸倉を突き放しざまに、思い切りソファへと放り投げた。
「どうも私はキミのことを勘違いしていたようだ。おとなしくて可愛い子供だと思いきや、とんでもねえスレ者だ! その様子じゃ、既に私の趣味も知っているだろうし、こっちも思う存分楽しませてもらおうじゃねえか!」
川西は、側にいた男二人に冰を拘束させると、立て続けに冰の頬を平手打ちにした。
「……ッ! 何をするんです! 言うことを聞かなければ……今度は……ぼ、暴力ですか……!?」
「何とでも言いたまえ。聞き分けのねえ子供にゃ、躾ってもんが必要だ。まあ、そんくれえ生意気な方が犯り甲斐もあるってもんだ」
ニヤニヤと気味の悪い笑いを浮かべたと思ったら、川西は冰の制服のシャツに手を掛けて、思い切りそれを引き毟った。
時期的にブレザーは着ておらず、ベストとシャツだけというのが、冰にとっては災難だった。ボタンが二つ三つと吹っ飛び、シャツが破けて胸元が大きく開かれる。
川西はそのまま冰の頭を押さえ込み、両脇から男たちに腕を拘束させると、腹の上に馬乗りになってベルトをゆるめ、一気にズボンを引きずり下ろした。
「何するんだッ、離せ! 離せよ……! 離せッ!」
冰は暴れ、思い切り両脚をバタつかせて、川西を蹴り飛ばさんとした。――が、既にズボンは太腿のところで絡まっていて、勢いよく剥かれたせいで、下着も尻半分まで脱げ掛かってしまっている。両腕は男たちに押さえ付けられているので、それらを穿き直すことも儘ならずで、羞恥心に冰は顔を真っ赤に染め上げた。
中途半端なそんな様を見下ろす川西の形相は、いやらしさで充満している。
「ほう! これはなかなか……! まだ真っさらで綺麗なこった……! お前さん、これで本当に男を知っているってか? 見たところ、自慰も殆どしてねえ初モンじゃねえか!」
川西は冰の下肢を舐めるように見渡すと、大満足だといった調子で、舌舐めずりをしてみせた。
「こんな上物、滅多にお目に掛かれるもんじゃねえな! 今まで俺が可愛がってやった奴らなんぞと比べたら、月とスッポンたぁこのことだ!」
これは楽しみ甲斐があるといったふうに、鼻息を荒くしてみせた。
「おい、雪吹! カーテンを締めろ! それから玄関で見張りをしてる男連中を呼んで来い!」
今までは取り敢えずも繕っていた敬語もどこへやら、冰の叔父に向かって命令を下すようにそう言うと、川西は本格的に冰を餌食にする算段を巡らせ始めたようだった。
川西の趣味は男を苛めながら陵辱することだ。無論、自分で犯ってしまうのも有りだが、他の連中に犯られるところを見て愉しむというのが好みの趣向である。下品極まりないニヤケ顔の下に、そんな妄想を巡らせているようで、川西の表情は下衆の悪人そのものだった。
逆に腰が抜けそうになっているのは冰の叔父の方だ。甥っ子が服を剥かれて悪戯されようとしている光景が気色悪いとでもいったように目を背けてタジタジとしている。
「あ、あの川西の社長さん……見張りの方たちにお声を掛けたら、私はお暇させてもらって構いませんかね?」
もうこの場にいるのはまっぴらご免だと、苦笑いがとまらない。叔父には男を弄んで喜ぶといった趣味はないのだろう。
「ああ、構わん! あんたは帰って好きにしろ!」
「は、それでは失礼します。後はどうぞごゆるりと……」
叔父はヘコヘコと頭を下げると、一目散といった調子で部屋を出て行ってしまった。
それと入れ替わるようにして玄関前で見張りに立っていた男二人が応接室へとやって来た。川西の手には、どこから持ち出してきたのか、荷造り用の太い紐が握られていて、あられもない姿の冰を前に鼻息を荒げている。
「おお、おめえら! 見ろ、こいつぁ最高の獲物だろうが!」
川西の言葉に、男たちも目を輝かせた。
どうやら彼らはいつも川西の”趣味”に付き合っている連中らしい。冰を見るなり、一発で興味をそそられたようだった。
「おい、一先ずこいつでこのガキを縛り上げろ」
川西から紐を受け取ると、男たちは舌舐めずりをしながらうなずいた。
「何すんだッ! ……こんなこと……犯罪だろうが!」
顔面蒼白で冰は叫び、拘束から逃れようと身を捩れども、中途半端に脱がされ掛かった状況は男たちを煽るだけだった。
「はは……! 随分とまた威勢のいい兄ちゃんじゃねえか!」
「こりゃ、楽しみ甲斐がありそうだ」
彼らは慣れているのか、抵抗されるのも満更ではないらしく、逆にもっと暴れろというふうに下卑た笑い声を上げている。
「川西の社長はいつものように、そこでゆっくりご覧になっててくださいよ」
「この野郎、どうしてやりましょうか? ただ犯っちまうのは惜しい綺麗な兄ちゃんだ。先ずは薬でも盛って、この兄さんにもイイ思いさしてやるのもオツじゃねえですかね?」
男たちの提案に、川西も食指が疼いたようだ。
「そうだな。じゃあいつものを使うか」
そう言って、催淫剤を持ち出そうとした――その時だった。
突如、応接室の扉が開いたと思ったら、そこには少々青ざめた表情で冰の叔父が息せき切らして立っていた。