-Body Language→



 遼二が自らの口の中で達ったことに、理由のない優越感を感じていた。なぜなら、夢の中の遼二はそうしなかったからだ。夢の中の彼女が味わっていないことを自分は手中にできている――そう思うと、酷く誇らしいような気分になれた。
 こんなことを思う自体、かなりアブナイような気がするが、今はこれでいい。

 安堵感を丸出しの、穏やかな表情で満足げにしていたというのだろうか、突如抱え上げられたと思ったら勢いよくベッド上へと押し倒されて、紫月は視線を泳がせた。

「紫月――今度は俺の番な?」
 馬乗りになられ、逃がさないぞと全身を拘束されて抱き包まれる。先ずは額と額がコツリと合わせられ、次に首筋へのキス、そして耳の裏から髪を掻き上げられて、そのまま鎖骨へと無数の愛撫が施されていく。ピッタリとした素材のタンクトップの上から乳輪を軽く啄まれれば、思わず嬌声のような吐息がこぼれて落ちた。
「ここ弄られんの好きだよな。すっげ、いい顔――」
「バッ……カ野郎……ンな、恥ずいこと言うな」
「お前、いまいち分かってねえみてえだから……この際、しっかり身体に教えとこうかなって」
「は……? 何を……分かってねえって……?」
「ん、俺がどんだけお前にイカれちゃってるかってことをさ」
 タンクトップを捲し上げられ、胸の突起を舐め回されて、たまらない快楽に紫月は遼二の腕を掴んで爪を立てる。
「それでいい。もっと引っ掻いていいぞ? 背中でも腕でも、ケツでも」
「……? 俺、そん……なことしてね……って」
「無意識かよ」
 遼二は笑い、その笑顔がドキッとさせられるくらいに色っぽくて、腹の辺りが掬われるような快感が突き上げてくる。紫月は染まる頬を隠すように視線を外した。
「紫月、覚えとけな?」
「……?」
「お前になら何されてもいい。引っ掻こうが、蹴ろうが、殴ろうが――」
「ンだよ、それ。そんじゃ俺が暴力男みてえじゃんかよ……」
「んー? じゃ、言い直すか。引っ掻こうが、舐めようが、しゃぶろう……が、……って、痛ッ!」
 舌の根も乾かない内に軽く膝蹴りを繰り出せば、遼二は声を上げて苦笑した。
 そして組み敷かれていた身体をひっくり返され背後から抱き包むように腕の中へと収められた。緩やかな律動と共に、耳元へと落とされたひとつの言葉――

「俺はお前しか抱かない。今までも、これからも――生涯ずっと――お前だけだ」

 二人の間では未だに互いを『好きだ』とか『付き合おう』とかいった約束らしいものは何も交わしていない。ただ欲するままに求め合い、深い関係を結び合うも、肝心なことは何一つ伝え合っていない中で、遼二が放ったこのひと言は紫月の心臓を一撃で射貫いてしまうくらいに衝撃的だった。
 おそらくは遼二当人も大した自覚がないままで言ったのだろうが、だからこそ飾りのない心のままを現わしてもいるようで、紫月の心を鷲掴みにして放さなかった。
 返事らしい言葉など思い付かないままで、紫月はうるさく高鳴る心臓音を抑えるように身体を丸め、ギュッと瞳を閉じた。その体勢が遼二の熱を煽り、
「……ッ! おい、そんな……締めんなって……! イっちまう……だろうが!」
 そう言う声も欲情にまみれて、雄の色香がダダ漏れだ。
「ムリ……! も、俺……もたね……かも」

 生涯ずっとお前だけだ――そんな言葉を聞いて、平気でいられるわけがねえ……!
 好きだとか、愛してるとか、どんな約束をもらうよりも深く激しく心に沁みる。
 今まで何一つ決め事も縛りもなかった関係は、既にこんなにも深く互いを結び付けていたのだと、今更ながらに気付く。

「遼……俺、俺も……」
「――ん? 何だ?」
 荒い吐息と激しい律動の中、紫月はどうしても伝えたいひと言のみを口にした。
 聞こえるか聞こえないかのような小さな呟きではあるが、これが紫月の精一杯だった。
 感動を遥かに超えた想いを聞いた今、どんな言葉をもってしても伝えきれないと思うのだ。


 そう、生涯ずっとお前の傍で生きていきたい――!


「イ……も、マジで……俺、イきそ……!」
「ああ……俺も……だ。ほんとはもっとお前ン中に居てえんだけど……な」
 何もかもがたまらない――そんな思いのままに、二人は欲情の波に身を委ねて震わせ合った。



 憂鬱な夢が連れてきたのは思いも寄らない至福の現実。
 自らを抱き包む熱情に身体を預けながら、紫月は夢見心地にまどろんだ。とある連休の日の午後のことだった。

- FIN -



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