極道恋事情
◆1
マカオから戻ってひと月が経とうとしていた、それは休日前の晩のことである。仕事を終えて社屋から戻り、着替えて夕飯の支度を待っていた時だった。
「わ……ッ、いっけない! そういえば忘れてたー!」
突如ダイニングで大声を上げた冰に、自室で着替え中だった周は怪訝そうな顔つきでニュッと扉を開けた。
「でっけえ声出して。どうした?」
見れば、ダイニングテーブルの脇に設置されたソファから立ち上がりながら、何やら大きな段ボール箱の中をガサゴソと覗き込んでいる冰がいる。
「何だ、その大荷物は……」
素肌にシャツを引っかけながら周が近づいてくる。
「うん、マカオの張さんから届いたって……今さっき真田さんが持ってきてくれたんだけどさ……」
「張からだと? いったい何を送ってきたんだ」
「それがさ……」
箱の中から取り出された物を目にした瞬間に、周はまたしても怪訝な顔つきで首を傾げてみせた。
「何だ、こりゃ……?」
「多分……着ぐるみ……だと思う」
「着ぐるみだ?」
冰が広げて胸前に当ててみせたそれを見るなり、呆れたように目を丸くしてしまった。確かに大人が着られる大きさの、モコモコとした生地でできた着ぐるみだったからだ。しかも顔の部分だけが出るようになっていて、耳の形をしたフードまで付いている。いわゆる全身タイプである。
「犬か、これ?」
「うん、多分……。手紙にそう書いてある。俺、張さんに犬飼ってるなんて言っちゃったじゃない? あれは嘘でしたって言うの、すっかり忘れてたよ……」
冰は目を白黒させながらそう言って、張からだという手紙を差し出してみせた。
確かに犬を飼っているとは言ったが、それは張を出し抜く為の芝居の一環であって事実ではない。だが、その後、張とはカジノで別れたきりになっていたので、そんなことはすっかり脳裏から抜け落ちてしまっていたわけだ。
「手紙だと? どれ、見せてみろ。何だって言ってきたんだ、張のヤツは」
周は封筒ごと受け取ると、中を開いて声に出して読み始めた。
雪吹君、その後お元気かな?
お陰様で俺の方は頭領・周からお預かりしたカジノ、シャングリラの方も順調に運び出しています。一日も早く雪吹君と周焔さんに来てもらえる立派な店になるように頑張る所存です。
ところで、先日の詫びも込めて、キミにプレゼントを選んだので送ります。本当はキミが飼っているワンコたちにと思って服を探したんだけれど、犬の大きさを聞いていなかったことに気が付いてね。そこで、今回はキミが着られるように人間用の着ぐるみを贈ることにします。ワンコたちと遊ぶ時にでも着てくれたら嬉しい。
せっかくなので、周焔さんの分も選んでみたぜ!
あと、執事さんや世話係さんの分も。それぞれ違う種類のにしたので、皆で楽しんでくれたらと思います。
今度はちゃんとキミのワンコたちのを送るから! よかったら犬種と大きさを教えて欲しいな。
それじゃ、周焔さんにもよろしくお伝えください。またマカオに遊びに来てくれるのを楽しみに待っています。
「――って、何だ、こりゃ……。張のヤツ、何を考えていやがるんだか……」
改めて段ボール箱の中を覗いてみると、手紙にあった通りに四着ほどの大人用の着ぐるみがわんさと出てきて、周は思わず眉をヒクつかせてしまった。
薄茶色をした可愛らしい耳のものは柴犬だろうか。別のものを引っ張り出してみれば、黒一色で耳がピンと凜々しいタイプまである。
「柴に――こっちはドーベルマンかシェパードってところか?」
「うは! これは真っ白だ! フカフカしてて毛足が長くて可愛い! ってことは、これはスピッツ系かな? それともポメラニアンかな?」
「……スピッツじゃねえか?」
二人で箱をあさると、結局薄茶と白の可愛いらしい系に、黒と焦げ茶の凜々しい系が二着ずつ出てきた。
◆2
柴犬にスピッツ、ドーベルマンにシェパード――それぞれ毛並みもフワフワのぬいぐるみのようだったり、艶のあるベルベットのようだったりして、なかなかに凝っている代物だ。
「もしかして張さん、これオーダーで作ってくれたのかな……? だってほら、この黒いのなんかものすごく大っきいよ? きっと白龍用に選んでくれたんじゃない?」
「――ッ……あの野郎ったら……」
周は頭を抱えながらも苦笑させられてしまった。
「ねえ、せっかくだから着てみようよ!」
「着るだと――?」
「そうだ! 執事さんと世話係さん用ってことは――きっと鐘崎さんと源次郎さんのことだよね?」
張の邸を訪ねた時にその二人も同行していたから、それでわざわざ彼らの分までと思ってくれたのかも知れない。
「――ったく、ヘンなところに気が回る野郎だな」
周は半ば呆れ気味だ。
「うーん、源次郎さんは多分こういうの着ないだろうから、紫月さんにどうかな? ね、ね、明日は休みだしさ。鐘崎さんと紫月さんに届けに行こうよ!」
冰の方は意外にもかなりの乗り気である。
「白龍はドーベルマンって雰囲気かな! 着たところ見てみたいなぁー!」
乗り気というよりは、すっかりワクワクとして着る気満々の様子だ。
「俺がこれを着んのかよ……」
嫌そうに肩を落としながらも、だがまあ――考えてみれば冰にこの可愛いのを着せてみるのも悪くはないと思えたりする。四人で着るならどうせ鐘崎も着ることになるわけだし、それならさして恥ずかしくはないだろうか。
「まあな、カネのヤツの着ぐるみ姿ってのも……ある意味、いいネタになりそうだしな。よし! それじゃ、明日にでも出掛けてみるとするか」
「ホント!? やった! まだそんなに遅くないし、紫月さんに電話してもい?」
「ああ……そりゃ構わねえが」
意気揚々と冰は早速に電話をかけ始めた。そんな姿を横目にしながら、マジマジとドーベルマンの着ぐるみを広げてみる周である。
「しかし――着るのはいいが、場所が問題だな……。カネん所の邸も広いには広いが……あそこは若い衆も多いしな」
誰かに見られたら、それはそれで気まずい。というよりも男の尊厳にかかわりそうである。仮にも極道の世界に生きる男が、喜んで等身大の着ぐるみを着ていたなどと知れたら、ある意味致命的といえる。
だが、冰と紫月のことだ、きっと大乗り気ではしゃぎ出すに決まっている。部屋の中ならまだしも、せっかくだからと中庭にでも出て、屋外で遊びたいなどと言い出し兼ねない。それこそ組の若い衆らから注目の的となるだろう。
「いや! いやいやいやいや、冗談じゃねえぞ……。それだきゃ、何が何でも阻止しねえと……」
ぬいぐるみになるのは、やはり冰と紫月だけで十分であろう。
「なぁ、冰。やっぱりお前と一之宮の二人で着りゃいんじゃねえか?」
「ええー! ダメだよー! 紫月さんも楽しみにしてるって言ってくれてるし!」
スマートフォンをフリフリしながら冰が笑う。
「記念に写真を撮って張さんに送ってあげようよ!」
「写真だ?」
四人並んで犬の着ぐるみ姿を思い浮かべた途端に、周はガラにもなく蒼ざめてしまった。
「まさか……輪になって踊ろうなんて言い出すんじゃあるめえな……」
張の好意は有難いが、同時に頭の痛いことでもある。
さて、どうしたものか。何とか自分と鐘崎は着ずに済む方法はないものだろうか――と、頭を悩ます周であった。
◇ ◇ ◇
◆3
そして次の日――。
ブランチを終えた周と冰は、張から贈られた着ぐるみを持って鐘崎組を訪ねた。もちろん、紫月の大好物のホテルラウンジのケーキも忘れずに買って行く。組に着くと、紫月が楽しみにして待っていてくれた。
週末の連休だが、若い衆の姿も多く見られ、幹部の清水や橘など邸の敷地内に住み込みの者もいるので、鐘崎組は相変わらず賑やかである。
若い衆らがビシッと腰を九十度に追って出迎えてくれる中、周は威風堂々と彼らに軽く会釈で応えて歩く。冰の方は鐘崎組を訪ねるのは初めてだった為、まさに極道の邸といった雰囲気に息を呑みつつも、「お邪魔致します」と、若い衆一人一人に丁寧に挨拶をしながら玄関をくぐった。
「冰君! よく来てくれたなぁ! 待ってたぜ!」
「紫月さん! こんにちは! あ、これ例のお店のケーキです」
厳つい男たちの中を通って来たからか、紫月の笑顔を見ると同時にホッと胸を撫で下ろす。
「うは! さんきゅなぁ! いっつも悪ィなー。今、茶ー淹れるからさ!」
「ありがとうございます!」
「お! もしかしてそれが昨夜言ってたやつか?」
冰が抱えていた大きな袋を見て紫月が訊いた。
「そうです、そうです! すごく本格的な着ぐるみなんですよー」
「わ、マジ? どれどれ」
相変わらずに”嫁”同士、仲がいいことである。会うなり早速におしゃべりに花を咲かせ始まった。
すっかり蚊帳の外状態の周の方には、ゆったりとした貫禄を見せつつ旦那である鐘崎が出迎えてくれた。
「マカオの張から何やら送られてきたんだって?」
「ああ、カネ。休みのところすまねえな。何でも等身大の着ぐるみだとかで、冰がえらく乗り気なもんでよ。お前と一之宮に届けてえって始まったんだ」
「構わん。紫月も冰と会えるのをいつも楽しみにしてるからな」
鐘崎は紫月たちが見渡せる窓際のソファへと周を案内しながら笑った。
「で、その張の方はどうなんだ。親父さんから預けられたシャングリラの運営も上手くやってるのか?」
「ああ、順調のようだぜ。香港の親父からも報告が来ていたが、思った通り張の手腕はなかなかのものだそうだ」
「そうか。そりゃ良かった。冰が拉致された時はどうなることかと思ったが、その拉致犯である張を懐に入れて、懐柔しちまうところはさすがに親父さんだな」
旦那組の方の話は、やはり世情や経済についての話題が多い。しばしお茶で喉を潤した後、キャッキャとはしゃぐそれぞれの恋人を横目にしながら、そろそろ相手をしてやるかといったふうに立ち上がった。
◆4
「どれ、それが例の着ぐるみってやつか?」
鐘崎がそう声を掛けると、既に自分の分を選んだらしい紫月が着ぐるみを胸前に当てながら着替え始めるところだった。
お茶を出しに来た幹部の清水らも既に下がっていたことだし、部屋には四人きりなので、気兼ねなくチャッチャとズボンを脱いで着ぐるみに脚を突っ込んでいる。
「なぁ、遼! 俺はこの柴のをもらうことにした! これ、成犬っつーよか仔犬のタイプだろ。すっげ可愛いわ!」
側では冰も白い毛足が長い着ぐるみに着替え中だ。どうにも不器用そうにオタオタやっているのを見かねて、周が苦笑しながら手伝いに立ち上がった。
「ほれ、持ち上げててやるからまずは脚から入れろ。片方ずつゆっくりやりゃいい」
「あ、うん! 白龍、ありがとう!」
着ぐるみはオールインワンタイプの上、特に冰のは毛足が長くてモコモコしている為、なかなかに着脱が大変なのだ。
「うはぁ、フッサフサのモッコッモコじゃん! どうだ、これ! 似合うべ?」
一足先に着替え終えた紫月が姿見の前で感嘆の声を上げている。耳付きのフードを被れば、まさに仔犬の出来上がりである。
「クゥーン、クゥーン、ワン! なんつってー」
両手で引っ掻く仕草をしながら鐘崎の胸板へと飛びついていく。それを見ていた周も羨ましく思ったのか、せっせと冰のファスナーを上げてやって、着替えを完成させていった。
「おい、冰。お前も来い。思いっきり飛び付いていいぜ?」
両手を広げて早く飛び込んで来いという仕草で笑う。冰は恥ずかしそうにしながらも、紫月らに触発されたのか、思い切って自分を待っている主人の胸板へと飛び付いた。
ドーン、とモコモコの塊を受け止めながら、周も満更ではなさそうだ。
「おお、威勢がいいな!」
ギュッと両の腕で抱え込めば、確かに抱き心地は最高である。
「ねえ、白龍。スーツが毛だらけになっちゃうよ! 白龍たちも着替えようよ!」
残っているドーベルマンとシェパードの着ぐるみを指差しながら、ワクワクと冰は言った。
「……マジで俺らも着んのか?」
チラリと鐘崎を見やる。どうせ彼は興味を示さないか、当然嫌がるだろうから、あわよくば自分も着ないで済めばそれに越したことはないと思うわけだ。
ところが、である。意外も意外、鐘崎は案外平然とした様子で、サッサと着ていた服を脱ぎ始まった。
「どっちも似たようなもんだな。おい、氷川。お前はどっちにするんだ」
残った二着を手に取りながらあっけらかんと訊いてよこす。
「遼にはこっちだな! シェパードならウチにもいるし、何つっても顔が遼に似てるわ! 如何にも強くてカッコいいって感じじゃね?」
紫月がうれしいことを言ってくれるので、鐘崎は迷いなくシェパードを手に取った。
◆5
「じゃあ白龍はドーベルマンね! 凛々しいところが白龍にピッタリだよね!」
冰もうれしそうにニコニコと期待顔だ。
「やっぱり着ろってか……」
結局、あれよあれよという間に着るハメになって、仕方なく周も上着を脱ぎ始めたのだった。
「うっわぁ……可愛いー!」
瞳の中からハートマークのエフェクトが次々と飛び出てくるような目で見つめられて、周は珍しくも苦虫を噛み潰したような表情で鏡の中の自分を見つめた。
「おいおい……まるで道化だな、こりゃ」
さすがにこんな姿は他人には見せられない。李や劉という側近たちを連れて来なくて正解だったと苦笑気味だ。それこそ家令の真田などが見たら、大はしゃぎしそうな姿が目に浮かびそうだ。
「うっはぁ、白龍、ホントに可愛いー! っていうか、凛々しいなぁ!」
だが、今度は服に毛が付く心配がないからか、冰がためらいなく思い切り抱き付いてきたので、それだけは役得だと思い、諦めることにする。
「まあ、たまにはこういうのも悪くねえか」
周が気を取り直して思い切り楽しむ方向にシフトすると、側では鐘崎も紫月を抱き締めながら興に乗っている様子だった。
「シェパードと柴か。どっちも警察犬に使われる犬だな。交尾すりゃ賢いガキが産まれそうだ」
そう言って紫月の背中に覆い被さって腰を振ってみせる。
「ウヒャヒャヒャ! このヘンタイエロワンコが! 遼、てめ……ワンコになっても獰猛なんだからよー!」
「言ったな! マジでこのまんま犯っちまうぞ!」
「無理だろ! これじゃ突っ込めねえし!」
「いや、俺の立派な大砲を見くびってもらっちゃ困る!」
「グハハハ! いくらお前のバズーカでも、ぜってー無理だって!」
「俺に不可能はねえぞ? 試してみるか? 威力には自信あるからな」
「わ、わ! やめろ、よせよせ! マジで生地破れるって!」
床に寝転がりながら下ネタを連発、ギャアギャアと賑やかしくはしゃぎ始まった二人を見つめながら、周はポカンと口を半開き状態で唖然とさせられてしまった。
「カネ、お前って案外チャレンジャーなんだな……」
「あ?」
鐘崎はチラっとこちらに視線を遣りつつも、未だ紫月に覆い被さってじゃれ合っている。
「ほら、冰君も早く逃げねえと! ドーベル氷川に犯られちまうぜー」
「紫月さんてば……やっだなぁ! うははは!」
恥ずかしそうに頬を染めながらも、冰も期待顔でいる。こうなれば恥も外聞もない。郷に入っては郷に従うべく、周も思い切り童心に返ることに決めたのだった。
「よし、冰! 俺らも負けてらんねえ。ドーベルマンとスピッツのハーフを作るか!」
ガッと冰を腕の中に抱え込んで、クニュクニュっと脇腹をくすぐる。
「やだー、白龍ってばー! ひゃあ! くすぐったいって!」
「こんなに分厚いんだ。くすぐったかねえだろ?」
「くすぐったいってー! うははは!」
そうして、しばし四人で大はしゃぎと相成ったのだった。
そんな騒ぎを聞きつけてか、中庭には鐘崎の家で飼っている本物のシェパードたちがワラワラと集まってきた。
「うわぁ! シェパードがいっぱい! 皆、鐘崎さんちで飼ってるんですか?」
冰が興味津々で縁側へと身を乗り出す。
◆6
「そうだよ。すっげ頼りになる番犬なんだぜ! いつも中庭で放し飼いしてんだ」
紫月が説明しながら庭へと降りて犬たちの頭を撫でると、彼らはちぎれんばかりに尻尾を振って『ウォン!』と凛々しい声で応えてきた。
「すごい! 皆カッコいいねー! 俺が撫でても大丈夫かな……?」
体格のいいシェパードたちを見つめながら、興味はあれども恐る恐る尋ねる冰に、
「大丈夫だよ! 皆、こう見えて賢いヤツらだから。冰君も降りて来いよ!」
紫月に手招きされて冰が縁側から降りると、犬たちにも彼が主人の大事な客だと分かるわけか、野太い声から『クゥーン』という甘え声になって、礼儀正しくお座りで迎えてくれた。
「うっわ、可愛いー! 本当に皆、ハンサムさん揃いだねぇ」
静かに並んで冰に頭を撫でてもらえるのをちゃんと待っている。
「よし、そんじゃ中庭に出て皆で記念撮影でもすっか!」
鐘崎の意外な提案に、周は思い切り眉根を寄せてしまった。
「おいおい……庭に出んのか? この格好でかよ」
「うはぁ、うれしいなぁ! 白龍も早くおいでよ! 今日はお天気もいいし、気持ちいいよー!」
「お! いいねえ! 記念撮影するべ、するべ!」
周以外の三人は大乗り気である。
「なあ、おい、カネよぉ……。若い衆もいんだろうが。てめ、そんなカッコで恥ずかしくねえのか……って、おい! 聞いてねっだろ!」
鐘崎は早速どこからかカメラを持ち出してきて庭へと降りていく。
「おい、誰かいるかー? ちょっとシャッター押してくれねえか?」
しかも自ら若い衆を呼び付けているではないか。
「……ったはぁ……。ダメだ、こりゃ」
もう何を言っても通じそうもない。周は頭を抱えながら、深い溜め息を連発してしまった。
「わ、若……ッ!?」
「ど、どうされたんスか……その格好……」
案の定か、呼び付けられて飛んで来た若い衆らが目を丸くしてあんぐり顔だ。だが、鐘崎は物怖じすることなく、鼻息を荒くしながら両手を腰に当てて『ウンウン』とうなずいてみせた。
「これは大事な国際交流の一環だ」
「……こ、国際交流っスか……!?」
「おう! どうせこの写真を張に送ってやるんだろ? そいつを見りゃ、着ぐるみを贈った張も喜ぶだろうが」
確かに一理ある。
張がこの写真を見れば、贈って良かったと喜んでくれるだろう。果ては、互いの間の絆と信頼が強固となり、任されたカジノ経営にもより一層精を出すというものだ。
周はそんな鐘崎を見つめながら、
「は……、器がでけえってのか。てめえにゃ負けるぜ」
苦笑しながらも、こんなふうにさりげなくもこちらの立場まで考えてくれる親友に、堪らなく誇らしい気持ちがあふれ出すのだった。
「よっしゃ! それじゃ皆で」
「はい、チーズ!」
本物のシェパードたちに囲まれながら、紫月と冰はとびきりの笑顔で、鐘崎は自らも飼い犬に負けじとシェパードらしく得意顔で、そして周は片眉をしかめながらも隠しきれない照れに頬を染めての直立不動、人形状態の顔が何とも微笑ましい。
和気藹々、最愛の恋人と最高の仲間たちの楽しげな声に囲まれながら、賑やかしい春の午後を満喫した一同であった。
その後、写真を受け取ったマカオの張が喜んだのは言うまでもない。それと同時に、一緒に写っている鐘崎家のシェパードたちを冰が飼っている犬だと思ったらしい張から、今度は正真正銘犬用の服がたんまりと送られてきたのはご愛嬌である。
一方、鐘崎組の若い衆らの間では、『ウチの若はめちゃくちゃグローバルなお人だ』という噂が広まり、これまでにも増して若頭に対する憧れと尊敬の視線が集まるようになったとか、ならなかったとか。
とにもかくにも、幸福な花吹雪舞う春爛漫であった。
ワンコ輪舞曲 - FIN -