かぼちゃあんどん
「なあ……俺、今日ちょっとエッチな気分なのー」
わざとらしい流し目で、ベッド脇に突っ立ってるヤツを見上げながら挑発的な台詞をかます。
面喰らい半分、興味半分、ゴクッと喉の鳴りそうになるのを必死で飲み干してまで、冷静なツラを装ってるコイツに、この想いをぶちまける為に。
溜まりに溜まった欲望、三週間分。
付き合おうか――なんて、形ばっかりつくろって、コイツとコイビト同士になってから、かれこれ一年。ちゃんと寝たのは数える程だ。
いつも互いの腹ン中を探り合って、会う度にソレ目的じゃ格好悪ィなんて見栄張り合って、挙句の果てに欲情持て余しては空回り。だんだん会話も少なくなって、もじもじウジウジだらだら、いつも横目に互いを窺い合ってる。
バカみてえな、俺ら――
いつの間にか俺たちを隔てた分厚い壁を、そろそろぶち破らなきゃマズくねえ?
お前がしないってんなら俺がするまでだ。
お前がさらけ出さねえってんなら俺が脱ぎ捨てるまで――
シャツのボタンに手を掛けて、ひとつふたつと外して、平たい胸板をさらして見せた。
鎖骨を伝う銀の細いネックレスが首筋をくすぐって、たったそれだけで背筋がうずく。どんだけ溜まってんだ、俺――
どれだけ我慢し合ってきたんだ、俺ら。
どれだけ意地を張り合ってきたんだろう?
部屋にあがって、テレビをつけて、雑誌をめくって、ゲームにネットに好きなオンガク?
時折、触れ合うくらいのキスをして、淡白なことが格好いいとばかりにクールを気取ってニセの笑顔を交わし合う。
ヤツが帰れば帰ったで、残り香に浸っては一挙一動を思い出し、ガキみたいに頬染めて、抑えていた想いを掻きむしる。
ギリギリまでため込んだ欲情が、行き処を失くしてのたうちまわる。
◇ ◇ ◇
「昨夜、オマエの夢見てさぁ……」
そんで我慢できなくなって抜いちまった。オマエを想像をしてドロドロズルズル、 腹はベトベト、指はヌルヌル――
なんて、素直に云ったら引かれるだろうか?
でも言ってみたい。そろそろいつもの仮面を脱ぎ捨てて、素直になってみてえの、俺――
ホントは俺ら、全然クールなんかじゃないじゃんよ?
軽いキスなんかじゃ足りねえ、
もっともっと、むさぼり合いたい。
だけど正直コワイってのも本音。
欲するままに、動物みたいに求め合って絡み合ったら、その先には何が待ってるんだろうって考えると怖くなる。
野郎同士で乳くり合って、気持ちイイだけじゃないのも本音。
すげえ辛くて痛くて怖くて、でも言葉にできないくらい熱くて幸せで、自分を失うギリギリまで昇り詰めては、頭の中をカラにする。
どっちが”突っ込むか”なんて、迷って揉めて悩んで萎んでの繰り返し。
◇ ◇ ◇
「な、ヤろうぜ――? 今日はお前が上ンなっていいからさぁ……」
ぼうっと天井を見つめながら、独り言のようにつぶやいた。
「――マジ?」
ちょっと荒い吐息をめいっぱい抑えて、未だクールを気取りながらヤツはそう言った。
ゆっくりと俺の上に覆いかぶさる瞬間に、フワッと立ちのぼった煙草の香りに喉が焦げ付きそうになる。
探るように、薄目のままで洒落たつもりのキスをする、ここまではいつもの通り。
既に半勃ち気味のコレとソレとが触れ合って、ベルトの金具が擦れた瞬間に、乾いた金属音が背筋をくすぐる。
ジッパーが下ろされるのも待てなくて、中途半端に開(はだ)け掛けてる肩先も疼いて、どうしょうもない気分が俺を高みへと押し上げていく。
「何――? もう勃ってんの?」
「悪ィかよ……」
「別に、悪かねえよ」
たわいもない吐息混じりの会話をポツリポツリと互いの耳元に落とし合い、と同時にシャツの上を這う指先が左の突起を撫でた。
たったそれだけで全身がゾクゾク、うねり出す。早くどうにかしてほしくて、呼吸までもが苦しくなる。
第二ボタンまで外した俺のシャツ、三つ目のそれにヤツの指先が掛かった瞬間が最高潮、まるで乾季に水の如く心臓が高鳴り出した。
「脱がして……くれんの……?」
余裕を装って、ニヤけ混じりで、ヤツを見つめて微笑ってやった。
何、俺、この期に及んでまだ格好つけてるなんてバカみてえ――
けど仕方ねえだろ?
今日は俺、てめえに組み敷かれてやってんだから。そんくらいのプライド残しておいてよ。
ウダウダとそんなことを考えてる自分が可笑しくて、苦笑いがこみあげた。
その瞬間にいきなりボタンを引き千切られて、俺はギョッとし、焦って腰を浮かせちまった。