春朧

春朧 1



「――ふん、アブねえのはお前らの方だろうが? 下校途中に制服のまんまでラブホから出てくるなんざ、イカれてるとしか言いようがないがな?」

 表情一つ変えずにそう言い放つ男に一瞬絶句させられる。
 それは今から五分程前、この部屋を訪ねた時から始まった言い争いの中で起こった出来事だった。



◇    ◇    ◇



「いー加減にしてくんねえッ!? だいたい、俺らのことプロデュースさせてくれっつったの、アンタの方じゃん!」
 全面ガラス張りのパノラマの壁面、その背後にはまばゆい大都会のウォーターフロントが心を躍らせる。そんな景色に似合いの重厚そうなデスクに静かに腰を下ろしたまま、微動だにしない男を睨み付けながらそう啖呵を切った。
「あんた、俺らの音楽に惚れてスカウトしたんだろ!? そりゃ、デビューさしてくれたのは正直有り難えと思ってるし……ッ、けど何でこう毎回毎回出す曲バラードばっかなんだよ! そろそろ俺らの音楽、やらしてくれてもいんじゃね?」
 苛立つ気持ちを隠せずにというよりは、わざとあらわにするような突っ掛かった物言いで、吐き捨てるようにそう言ったのは、この三月に四天学園(してんがくえん)高等部を卒業することになっている織田紫苑(おだ しおん)、つい先月に誕生日を迎えて十八歳になったばかりの少年だ。
 きつい眼差しで睨みをきかせてはいるが、もともとはクリッとした感じの大きな瞳が印象的な、何ともアンニュイな感じのする相当な男前である。一八〇センチはあろうかというスラリとした長身で、薄茶色の髪は染めたものなのか天然なのか、癖毛ふうのゆるやかな巻き毛に程よく似合っていて艶めかしい。この年齢にしては色香も兼ね備えた雰囲気を醸し出し、とにかく一見にしてどこそこ興味を引かれるような華のある感じの男だった。
 そんな彼の隣りで同じように睨みをきかせているのは紫苑の相方で、彼と共にユニットを組んでデビューをしたばかりの如月遼平(きさらぎ りょうへい)だ。
 紫苑とは対照的な濡羽色の黒髪がひどくオリエンタルで、彫りの深い端正な顔立ちによくよく似合っている。ぱっと見た感じ、紫苑より若干背丈もあるだろうかと思える長身は、それだけでも見栄えがするといったところだろうか。とにかくミュージシャンとしてデビューするには文句なしのビジュアルを備えた二人であるのは確かなようだ。
 そんな彼らが面と向かって啖呵を切っているのが、ここの音楽事務所の専務であり、実質彼らを手掛けるプロデューサーでもある氷川白夜(ひかわ びゃくや)という男だった。
 氷川はこの業界では結構な名の知れた男で、この二人の他にも様々なミュージシャンに楽曲を提供したりしているやり手だ。だが、自らシンガーとして活動しているといったふうではなく、あくまでプロデュースを本業として活躍していた。
 学生時代からの友人であった粟津帝斗(あわづ ていと)と共に小さな音楽プロダクションを立ち上げたのは、かれこれ二十年近く前になるだろうか、今や三十八歳の順風満帆な彼にプロデュースしてもらいたい若者は五万といるといって過言ではないだろう。
 そんな若者らからしてみれば、神格的ともいえる氷川を相手に啖呵を切るなど、到底信じられない行動だろうが、それも致し方なかろうか。何せこの紫苑と遼平の二人を見出し、自らスカウトしたのは、他ならぬ氷川当人だったからだ。
 もともと、地元川崎の繁華街でギターを片手に路上ライブをしていた二人を見掛けたのは、ほんの一年前のこと、やはり川崎が地元の氷川が実家に帰った折のことだ。氷川は一目で彼らに惹かれ、その日の内に声を掛けた程だった。
 そんなわけだから、この若い二人が多少天狗になったとて致し方ないのも一理あろうか。未だひと言の返答も返さないままで、じっとこちらを見据えているだけの氷川の態度に煽られるように、紫苑はますます声を荒げてみせた。
「だいたいッ! 今までの曲だって爆発的にヒットしたのなんかひとつも無えじゃんよ! メディアじゃ大手プロデュースだなんだって騒がれてるワリにゃ、歌の方は大したことねえって……陰口叩かれてんのも知ってんだ! こないだなんか『いっそのこと歌やめてモデルに転向したら?』なんて平気で言われたしよ……ッ」
 それもこれも自分らの音楽をやらせないからだと言わんばかりなのがありありと分かる。
 彼らはユニット名を『JADEITE《ジェダイド》』といい、デビュー時からずっと氷川が楽曲を手掛けてきた、いわば秘蔵っ子といわれている存在だ。今までに三曲ほどのシングルをリリースしたが、確かに彼らが言うように、そのどれもがバラード調のしっとりとした表情の強いものだった。加えて次の四枚目のシングルも似たような曲調と知って、ついには我慢の限界に達したわけか、若い二人がこうして直談判に乗り出してきたわけである。
 もともと高校でもあまり素行の褒められたタイプではないせいか、普段は隣校の不良連中と小競り合いをしたり粋がってみたりと、お盛んなようだ。そんな態度をそのままに、肩を鳴らしながら凄んでみせる二人の態度にも、氷川は依然黙ったままだ。落ち着き払ったその様からは、まるで『仔犬がえらそうに吠えるんじゃねえ』とでもいわんばかりの、妙な気迫までをもまとっているようで、若い二人にとってはそんなところも気に入らなかった。
 それに追い打ちをかけるように、ようやくと口を開いた氷川の第一声は、より一層彼らの神経を逆なでするような物言いだった。
「お前らの歌がヒットしないのはお前らの心構えがなってないからだ」
「はッ――!? 何それ……」
「まるで魂が入ってない。今までに出したのだってどれをとっても中途半端で頭が痛いのはこっちの方だ。ミキシングでかろうじて聴ける程度の仕上がりになってはいるが、あれでヒットもクソもねえってところだろうな」
 机の上で手を組み合わせ、その手の上に顎を乗せてじっとこちらを見据えながら、視線を泳がせることもしないままで飄々とそう言い放つ。若い二人をキレさせるには十分過ぎる台詞だった。

 どちらかといえば落ち着いた雰囲気の遼平はともかくとして、直情型らしい紫苑が黙っていられるわけもない。彼は怒りのままに、卓上をドンと拳で叩きつけては『ふざけんなッ』とひと言怒号を上げた。
 相方の遼平も、そんな紫苑の肩に手を掛けて、形式だけは彼を鎮めんとしながらも、だがやはり同様に腹立たしいのは変わらないといったふうで、二人は揃って目の前の男を睨み付けていた。
 氷川はジロリと彼らを見上げるように視線だけをそちらへやると、
「それに……俺が気に入ったのはお前らの”面構えと声だけ”だ。お前らのやってた”音楽”じゃねえ」
 怒りを通り越し、驚愕ともとれる酷な台詞を平然と投げつけた。
 これには寡黙なタイプの遼平の方も一瞬ギリリと唇を噛みしめた程で、紫苑に至っては握った拳がワナワナと震え出すくらいだった。
 あまりの率直な物言いに、しばしは反抗の言葉も思いつかずに立ち尽くす。そんな二人をよそに、氷川は更に輪をかけるようなえげつない物言いをして見せた。
「ああそうだ、もうひとつ。面構えと声の他にお前らをスカウトしようと思った理由は……お前らがゲイで、お互いに乳くり合ってる間柄だからってことだったな?」
 冷やかすでもなければ罵倒するでもなく、ひどく真面目な調子でそんなことを言い放たれて、二人の怒りは頂点に達した。
「はっ……!? 何だよそれッ……! ツラと声はともかく……意味分かんねえよッ! 俺らが乳くり合ってりゃ何だってんだよッ!? あんた、ひょっとしてアブねえ趣味でもあんのかよッ!」
 自慢のセクシー系のハスキーボイスを潰さんばかりの勢いで紫苑がそう怒鳴った。
「――ふん、アブねえのはお前らの方だろうが? 下校途中に制服のまんまでラブホから出てくるなんざ、イカれてるとしか言いようがないがな?」

――――ッ!

「……あ……ン時きゃ、たまたまだったんだッ……! いつもってわけじゃ……ねえよ……っ!」



◇    ◇    ◇



 それは今からちょうど一年程前のことだった。
 路上ライブで見掛けて以来、彼らを気に入った氷川が度々川崎へ出向いては、その様子を窺いに顔を出していた或る日のことだ。
 その日は格別の約束をしていたわけでもなかったが、偶然に時間が取れた合間を使って彼らに会いに繁華街を訪れた時だった。いつもライブを行っているはずの場所に行ったが見当たらないので、仕方なく辺りを少しブラついてから、諦めて撤収しようと思った矢先のことだった。どこそこごまかしてはいるものの、よくよく見れば制服姿のまま、繁華街の裏路地付近でコソコソと人目を忍ぶようにしている彼らと出くわしたのだ。
 立地的に見ても、そこから先はラブホテルの立ち並ぶ、いわばホテル街として知れた場所柄だ。奇妙な場所で鉢合わせたのを怪訝に思い、『こんなところで何をしているんだ』と訊くも、モジモジと顔を赤らめながら視線を反らす二人の様子を見ただけでピンときた。男同士でありながら彼らが付き合っているだろうこと、それと同時に既に深い関係にあるだろうことなども容易に想像がついた。

 この時の彼らは、氷川にスカウトの声を掛けられて間もない頃だったのもあって、こんなことがバレた以上、今回の話は無かったことにされるのではと相当焦ったようだった。だが氷川は、そんなものは個々の自由だからと言って、あっさりと容認してみせたのだ。これには二人の方が余程驚かされたくらいだった。
 とにかく音楽活動をする上で、お前らが恋愛関係にあるかどうかなど大した支障にはならない、むしろ喜ばしいくらいだなどという氷川の真意の方が理解できなかった程である。

 そんな調子だから、メジャーデビューを果たして以降も、そのことに関して事務所側からうるさく干渉されるようなこともないままに、今日まできた。遼平と紫苑にとっては有り難くもあったわけだが、その一方で、寛容過ぎる氷川のやり方を逆に疑ってしまうことも無きにしもあらずといったところだった。
 そして今もまた、『お前らをスカウトした理由はお前らがゲイで乳くり合っている間柄だからだ』などと平気で言う。そんなことには理解を示すくせに、音楽のこととなると、まるでこちらの意向を聞こうともしない傲慢なプロデュースばかりを仕掛けてよこす。いったいこの男は何を考えているのかと、ますます苛立ちは増すばかりだった。

「とにかく――、俺はお前らの曲に興味は無え。ついでに言っておくなら次のシングルの予定を変えるつもりも全くない。分かったらごちゃごちゃ言ってねえで少しは歌詞くらい覚える努力でもしておくんだな」
「……ッな……っ!?」
「毎度毎度譜面を追わなきゃ満足に歌えもしねえんじゃ、スタッフも世話が焼けて仕方ねえしな?」
 淡々と突き放されて、紫苑は怒りを抑えきれずにビクビクと眉間の皺を震わせた。
 最早何がどうなっても構わないというくらいに煮えたぎった彼の感情は、行き場を失くして色白の頬を真っ赤に紅潮させてもいる。そんな様子に遼平の方が、
「じゃ、氷川さんは俺らの音楽のことは全然認めてくれてないってことですか……? けどそれじゃ、歌やってる意味ねえじゃん。俺ら、そんなに才能無えんなら、なんでスカウトなんかしたんだよ」
 真剣な顔つきでそう訊いた。
「才能が無えなんて、俺はひと言も言ってねえよ。面構えと声質、それだけありゃ十分だ。立派に誇れる大した才能だ。あとはそれを生かすか殺すかはお前らの心構え次第――」
 そこまで言い掛けたところで、再び振り上げられた紫苑の拳が卓上を叩く音で、その先の台詞がさえぎられた。
「もういいよ……ッ、別にあんたにプロデュースしてもらわなくたって……俺らのこと認めてくれる事務所は他にもあるはずだ……ッ! それに……もし拾ってくれる所がどこも無えってんなら、また路上ライブしてた頃に戻るまでだぜ! その方が……ッ、あんたなんかんトコにいるよりよっぽどいい――」
 紫苑はところどころ声を嗄らすようにしながらそう吐き捨てると、まるでこれ見よがしに『お世話になりました』とでもいうようにペコッと軽く頭だけを下げて見せ、そしてすぐさま部屋を飛び出して行った。そんな様子に遼平も同様に会釈だけをすると、無言のまま紫苑の後を追うようにその場を後にした。



◇    ◇    ◇



 怒りと悲しみの入り混じったような残り香にほうっと深いため息をつき、ふと背後を振り返れば、パノラマのガラス面に蒼い闇が降りてきていた。
 チラホラと輝き始める街の光が目に眩しい――
 氷川は引き出しのシガレットケースから強めの煙草を選ぶと、深くそれを吸い込み、くゆらしながら眼下の光を眺めていた。

「――気に入ったのはツラ構えと声だけ、ね。さすがにあの言い草はなかったんじゃないのかい?」
 少し呆れたようなやわらかな問い掛けに後ろを振り返れば、そこには共同経営者であり親友でもある事務所社長の粟津帝斗がドアにもたれながらこちらを見据えていた。
「ああ、帝斗か――」
 氷川はそれだけ言うとまたパノラマの眼下へと視線を戻し、もうひとたび深く煙を吸い込んでは、立ち上った煙が滲みるといったように瞳を細めて見せた。
 粟津帝斗は、長い付き合いの中でそんな彼の気持ちのすべてを理解しているというところなのか、格別にはそれ以上の嫌味を口にするでもなく、ただ彼の隣りへと歩を進めると、自らも肩を並べて眼下の景色に目をやった。
 この無数のまばゆい灯りの何処かで、今頃あの二人はどの辺りにいるだろうか。きっと怒り任せの早足で、苛立つ紫苑を遼平がなだめるように追い掛けては、寄り添うように歩いているのだろうか。ふとそんな想像がリアルに浮かんでは脳裏をよぎる。
 彼らの実家は川崎にあるが、デビュー以来ずっとこのプロダクション内にある部屋をあてがって住まわせてきたので、とりあえずの行く宛てなど思い当たらない。気の強い彼らのことだ、いそいそと実家に戻って泊めてもらうなんていうことだけはプライドが許さないだろうということも薄々分かる。
 それとも案外言葉通りの根性などありはしないから、ちょっとすれば現実に疲れて、荷物を取りがてらなどと言ってひょっこり顔を出すかも知れない。そんな想像が次から次へと浮かんでは消えていった。
 よくよく思い返してみれば、もっと他に言い方があったのではないだろうかと、どうにもため息がとまらない。
 少しは彼らの意向を取り入れて、彼らの望むような曲調のものを提供して、そしてやる気を出させてやることもできなかったわけではない。他の若いミュージシャンにそうしているように、流行りのメロディーに流行りの詞をのせて、ヒットさせるだけが目的ならばいくらでもやりようは承知の上だ。
 だが彼らにはどうしてもそう接してやることができなかった。

 そうだ、そんな通り一辺倒な型じゃなく、あいつらに歌って欲しいのはもっと深いもの――

 深くて切なくて、この心臓がもぎ取られるくらいのあの衝動を歌にのせて、彼らにこそ表現して欲しかったものなのだ。
 氷川は短くなった煙草をひねりながら、隣りの帝斗に向かってボソリとつぶやいた。
「なあ帝斗、俺のやってること、ガキだって思うか?」

 けど仕方ないんだ。
 あいつらを初めて川崎の路上で見つけた時の俺の気持ち、お前だったら分かってくれるだろう?
 一瞬、心臓が止まるかと思った。いや、いっそこのまま止まってしまってもいいと、そう思ったほどだ。
 これが現実ならば神様ってやつは本当にいるんだって、そんなことまで思ったくらい――
 この二十年、俺が自分の中にため込んできたものを、体現できるのはあいつらしかいない。
 あいつらにしかできない。
 あの顔立ち、あの声、
 そう、あの二人に再び巡り会えるだなんて思いもしなかった。

「変わってないな」
「――え?」
「お前のことだよ。二十年前のやんちゃしてた高坊の頃から全然変わってない。まあ、紫苑と遼平も似たようなもんだ。僕から言わせれば、お前ら皆同じ類だよ。本心をはっきり言葉にして伝えることもできないままで、だけど”そんなの言わなくても到底理解してくれてるだろうと思ってた”なんて平気で言うんだ。格好つけてイキがって絡み合って、正直にいえばどうしょーもないガキ同士ってこと」
「は――、相変わらず毒舌だな」
「でもまあ、いいんじゃない? お互いとことんガキになれば。腹の探り合いとか、見栄とか外聞とか立場とか、そんなの関係なく思ったままをぶつけ合う。まだ大人の社会を知らなかったガキの頃の……あの頃のままで、ずっと共に走っていけたなら……こんな理想はないじゃない?」

――そう、ずっとそうだったように。
 ガキだったあの頃と何も変わらずに、微笑み合って、ぶつかり合って、喧嘩して、仲直りして、そしてまた笑い合う。
 ずっとずっとこのままずっと、共に過ごせたらいいって、僕らはずっとそう夢見てきたのだから――

 ガラス越しに映る互いの表情を見合いながら、二人の間に共通する感慨が胸を逸らせる。
 ふと、思いついたように氷川が隣りの帝斗を見やった。
「……そうだあいつら! カバンとか携帯とか金とか、ちゃんと持って出たんだろうな? まさか一文ナシで街中ブラついてるなんて……こたぁねえよな」
「まあ今時の子だ、携帯は肌身離さずってとこだろうが……。他の荷物や着替えとかまではどうかな? あの勢いで飛び出したんなら、わざわざ部屋に寄る余裕があったとも思えないがね?」
「……ッ、っの馬鹿どもが……っ」
 彼らのことだ、荷物を取りにわざわざこのビルに戻ってくるなんてことは到底プライドが許さないだろうというのは言わずもがなだ。まだ二月半ばのこの時期に、宛てもなくブラついていやがるのかというような不安な面持ちで、氷川は眼下の景色を気に掛けていた。まるでそのイルミネーションの小さな粒の中から、彼らがこちらを見上げてでもいるんじゃないかといわんばかりの調子で、食い入るように見渡しているのが可笑しくて、帝斗はクスッと笑ってみせた。
「大丈夫だよ。ちゃんと倫周(りんしゅう)に後を追わせたから。今頃は多分、とっくに車で拾ってる頃だろう?」
 倫周というのは帝斗の弟で、現在は彼の秘書として事務所を手伝っている男だ。何とも優しく穏やかな感じのするのんびりとした性質で、所属ミュージシャンらの間でも、皆の癒し系などと呼ばれているような存在であった。
「――そうか、倫周にか?」
「ああ、僕の自慢の弟だ。お前と違って気立てのやさしい子だからな? 紫苑と遼平も倫周を相手にイキがりゃしないって。今の彼らにとっては素直になれる唯一の存在だろうし、ちょうどいい相談相手になると思うよ?」
 そう言いながら微笑む様子に、氷川は安心したようにドッと肩を落とし、と同時に少々呆れまじりで帝斗を見やった。
 まったく、相変わらず機転がきくというか、手はずのいい男だ。まあだからこそ、こうしてずっと共にこられたのだろう。
 氷川はお手上げだというように小さな苦笑を漏らすと、またひとつ、引き出しのシガレットケースから今度は少し軽めの煙草を選んで手に取った。



◇    ◇    ◇



Guys 9love

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