春朧
「何これ、二十年前ってさ……じゃ、やっぱ別人? うっそ! ドッペルゲンガー……?」
遼平の手元から写真を引っこ抜く勢いで奪い取り、目を皿のようにして凝視する。ここに写った人物が自分たちでないとするならば、これ以上気味の悪いことはなかった。
どちらか一人だけが何となく似ているというくらいなら笑いごとで済まされるだろうが、二人揃ってこうもそっくりでは冗談などでは割り切れるものじゃない。しかも本人が見ても間違えるくらいなのだから尚更だ。他人のそら似どころか、親子でもここまで似るなんて有り得ないと思う程に瓜二つだったからだ。
「お、おい……他にも何か挟まってねえのかよ? なんかこのままじゃ……気色悪りィったらねえよ」
「ん、ああ、そだな。写真、写真ね。もう一枚くらい出てくっかな?」
手にした手帳も心なしか汗ばんで、思うように扱えない。
ちょうどその時だ。部屋の扉のノックされる音がして、少しすると食事の用意された銀色のワゴンを引いた使用人らしき男が、倫周に連れられてやってきた。
「やあ、待たせたね? お腹すいただろう」
にっこりとしたその微笑みでようやくと現実に引き戻された感じがして、遼平も紫苑もホッと胸を撫で下ろすような心持ちになった。
とにもかくにも食事どころではない。確かに腹は減っているが、今はもっと大事なことがあるんだ――
食事に目もくれずといったまま、切羽詰まったような表情で二人が差し出してきたものを見て、倫周はハッとその大きな瞳を見開いた。
「これ……何で君たちがこんなものを持ってるんだ……?」
酷く驚いたように、その顔色を少し蒼白く変えながらそう訊いた倫周の態度に胸が逸り出す。
「やっぱ知ってんだ? そこに写ってる奴らのこと――」
「それ、誰ッスか――? 俺らとよく似てっけど、別人なんだろ?」
交互交互に問い詰める勢いで二人がそう訊いてくるのに、倫周はふいと瞳を細めると、何ともいえないような表情で少しだけ笑みを浮かべてみせた。まるで何かを懐かしむように、そしてひどく切なげにそれを見つめては静かな溜息を漏らす。やはり何かいわくありげなのは確かなようだ。
しばらくの後、今度は少々明るめの声で倫周は言った。
「懐かしいなこれ。ちょっと待っておいで。その時に撮った写真が他にもあったはずだから……君らにいいものを見せてあげよう」
そう言って、一旦部屋を出て行った。
◇ ◇ ◇
それから少しして戻ってきた倫周が抱えていたものは数冊のアルバムのようなもの、『ご覧』といって差し出されたそれをめくった瞬間、遼平も紫苑も驚いたように息をのんだ。
そこには先程の写真の続きともいうべき、同じ場所で同じように撮られたショットが何枚も出てきたのだ。しかも氷川の持っていた一枚とは違って、かなりズームして撮ったようなアップショットまでがゴロゴロとある。驚愕だったのは、そのどれひとつをとってみても、そこに写っている人物がやはり自分たちに瓜二つだと思えることだった。
アルバムをめくる内に、社長の帝斗や倫周の若い頃だと思われるようなものを発見した。
「これ、ひょっとして倫周さん?」
「マジ!? すっげー、若えー」
額と額をくっ付けるようにして二人はしばし写真に見入っていたが、その内の一枚に、遼平がふとページをめくる指をとめた。
「ね、これってもしか……氷川さんじゃないスか?」
淡いグレーのブレザーにからし色のタイ、見覚えのあるその制服姿は自分たちの通う四天学園の隣校である桃稜学園(とうりょうがくえん)のものに違いない。
桃稜学園といえば、何かにつけて四天とは因縁関係にあるというか、どちらもあまり素行の褒められた学園でないだけに、街中で鉢合わせればいがみ合いの絶えないといった感じの、いけ好かない連中だ。
氷川がそこの制服を着ている時点で冷笑がとまらないところだが、それ以上に今とは打って変って、黒髪をサイドからバックに撫でつけたタイトな髪形が時代を物語ってもいるようで、とにかく可笑しくて仕方ない。紫苑はプッと噴き出しながら、
「何これ! まさか氷川のオッサンって桃稜出身なわけ?」
クリッとした大きな瞳を悪戯っぽく見開きながら、冷やかすような調子で倫周にそう訊いた。
「そうだよ。聞いてなかったかい? 白夜は川崎桃稜、僕と帝斗は横浜白帝出身さ」
「白帝――!?」
思わず大声を上げるほどに、遼平と紫苑の二人は驚きで目を剥いてしまった。それもそのはず、『白帝』といえば大金持ちの御曹司が通うとして有名な学園だったからだ。幼稚園の部から大学院まであるエスカレーター校で、国内でも名をはせている程なのだ。自分たちの通う四天学園や隣校の桃陵学園とは次元が違う異世界だ。
「白帝ってなぁ……。やっぱ、超金持ちなんだ。まあこの家見りゃ分かるけどさ」
それよりも氷川の若かりし頃の様子がたまらない。どうにも笑いがとまらないといった調子で、紫苑が腹を抱えていた。
「あー、もう腹痛ェよ! 氷川のオッサンって高坊の頃からフケてるっつーかさ、すげえウケる! 特にこの髪形! 一昔前の不良ってよりはマフィアの頭領みてえじゃんか!」
何か勘違いしてないかとばかりの高笑いでウケまくる紫苑に、倫周はにっこりと微笑みながら、『そうだよ』とだけ返事をした。
「は――? そうだよ、ってあんた……。前から思ってたけど倫周さんってちょっと天然入ってるっつーか、やっぱ癒やし系?」
なかなか面白い冗談だとばかりに、氷川の写真を握り締めながら未だ笑いをこらえているその様子に、倫周は相も変わらずのニッコリとした笑顔でそれに似合わないような突飛なことを言ってのけた。
「白夜の実家はマフィアだよ。彼のお父様は香港にいらしてね、中国人なんだ。お母様は日本人で、だから彼はハーフなんだよ。現在はお兄様が跡を継いでるそうだから、正確に言えば『頭領』は彼のお兄様ってことになるね。まあそのお陰で白夜は自由奔放に音楽なんてやっていられるようだけどね」
当たり前のような笑顔でそう言われて、紫苑はおろか遼平も、開いた口が塞がらないというような表情で唖然とさせられてしまった。
ちょっと待ってくれ、自分が今『頭領みたいだ』と言ったのは、ひとつのモノの例えであって、そんな正確なところの現実話をしたのではない。そう突っ込みたいのは山々だったが、今はそれ以前にとてもじゃないが信じ難い話を聞かされた方が驚愕だった。
冗談なのか本気なのか、この倫周に言われると、実際どちらなのかの判断がまるでつかなくなる。少々天然系の彼の言うことを鵜呑みにする方がバカなのか、それともからかわれているだけなのか、紫苑は拗ねたように口をとがらせながら、半信半疑の怨めしげな様子で倫周を見やった。
「つか、オッサンのことはもういーよ! それよかこっちの二人。俺らにそっくりなこの二人も知り合いなんだろ?」
一緒に写っている時点でそれは間違いないだろう。紫苑は興味ありげに笑いながら、
「どーせならオッサンよかコイツらに会ってみてえよなー? ここまでそっくりだと自分が将来どんなオヤジになるかって、いいシュミレーションになんじゃん」
何処にいんの? 会わせてよ、とでもいうように身を乗り出しながら、からかい半分でそう言う紫苑を横目に、遼平が口を挟んだ。
「やめとけよバカ! ドッペルゲンガーに遭うと死んじまうって話、よく聞くじゃん」
紫苑に比べれば生真面目な性質の遼平は、そんなことよりもこの写真の人物が何処の誰なのかということの方が気に掛かって仕方ないらしい。そんな彼までをもからかうように、紫苑は言った。
「ンなの、迷信に決まってんじゃん。第一、二十年も前に高坊だったんなら今頃はとっくにオヤジになってんだろ? 氷川のオッサンと同じくらいじゃね? それでドッペルゲンガーもクソもねえよ」
カカカッと高笑いをしながら、
「それともナニか? ドッペルゲンガーじゃなくって、案外俺らってこいつらの生まれ変わりだったりしてな?」
そう考えれば気味が悪い程に瓜二つなのにも納得がいく。半ばおどけ気味の冷やかした態度で、紫苑は倫周にあて付けるかのように、手にした写真をブラブラとなびかせてみせた。
――そうだね
今までのにこやかな表情をフイと翳らせて、倫周がポツリとそう呟いたのに、紫苑らは『え?』というようにして不思議そうに首を傾げた。
「白夜はそう思ったかも知れないね。路上ライブをしていた君らと初めて出くわした時に……心臓がとまるくらい驚いたと言っていたからね。本当に生まれ変わりなのかと思ったのかも」
ひどく深刻かつ切なげにそんなことを言われて、紫苑は少々苦笑気味で視線を泳がせた。
「あー、えっと倫周さんのジョークは……また後で聞くからさ。それよかこの写真の二人のことを――」
「ジョーク?」
「んだって、さっきから聞いてりゃ、マフィアだの生まれ変わりだのって現実離れしたジョーク言われても正直ウけねえし。どーせならもっとマシな冗談を……」
「冗談なんか言ってないよ」
「――は?」
――僕は何一つ冗談なんか言ってないし、嘘もついていないよ。
「ついでに言うなら僕は粟津家の本当の息子じゃないんだ」
真剣な面持ちでそう言われて、紫苑はますます苦虫を潰したように眉を吊り上げた。
次から次へと謎めいたような切り返しばかり、どこまでが真実でどこまでが冗談なのか、まるで見当のつかないことだらけだ。
「えっとさ、もしか俺らを慰めてくれようとしてたりする……?」
先刻からの氷川との一件で落ち込んでいるだろうから、突飛なことを言って元気を出させてやろうとでもいう訳だろうか。だとすれば、その気遣いは有り難いが、それにしても笑えないネタばかりだ。
「倫周さんの気持ちは有り難てえし……俺らを拾ってくれて、ここへ連れて来てくれたことにも感謝してますって!」
――が、ズレまくったジョークを連発されても正直なところ疲れるだけだ。その気持ちだけはもらっておくから、ヘタクソな冗談を考える暇があったら、こちらからの質問に答えて欲しい――口にこそしなかったが、紫苑としては内心そんな気持ちだったのだろう。
「んと、だからさ……俺らが知りたいのはもっと現実的なことで」
「紫苑君、僕の言ってること……嘘でも冗談でもないんだよ。全部本当のことなんだ。そりゃ、生まれ変わりっていうのは……確かに現実味がないかも知れないけど、それは僕らの希望であって……」
「……は?」
もう何が何だか頭の中がぐちゃぐちゃだ。それでなくてもついさっきは氷川と一悶着してきたばかりだというのに、唐突なことばかり突き付けられて、ますます苛立ちはつのるばかりだ。いつまで経っても一等訊きたいことの答えを教えてもらえないのでは、さすがにモヤモヤが募る。そんな感情を一気に吐き出すかのように、紫苑は少々声を荒げてみせた。
「なら訊くけど……! もし俺らがこの写真の奴らの”生まれ変わり”だってんならさ、こいつらもうとっくに死んでるってことになるんじゃね? 氷川のオッサンがマフィアだとか、あんたがここン家のホントの息子じゃねえとか、いきなり何なんだよ……! そーゆーのを笑えねえジョークだって言ってんの」
年上の倫周に対してこんな言い方をするのは失礼だと承知しつつも、若さ故か抑えがきかない。少々苛立ちながらそう言って、まるで放り投げるようにテーブルの上へと持っていた写真を滑らせた。
俺たちが訊きたいのはそんな妄想なんかじゃない。いい加減、その天然ボケは勘弁してくれといった調子で、紫苑はあからさまにふてくされた顔を隠せなくなっていた。そんな様子を横目にしていた遼平が、気遣うように話に割って入った。
「すいません倫周さん。コイツって思ったまんまが顔に出ちまうんで……気を悪くしないでください。それよりこの人たち、俺らにあんまりそっくりなんで、ちょっと興味湧いちゃって……。よかったらどういう人たちなのか教えてもらってもいいですか?」
遼平の紳士的な物言いにも、紫苑の方は少々気に障るといった顔つきをしていたが、その直後になされた倫周の話の内容を聞く内に、それらが次第に驚きの表情へと変化していった。
「その写真を撮ったのは彼らの高校の卒業式の日だった。もう二十年になるな。白夜と帝斗も同じ日に卒業式だったから、その後に皆で集まって打ち上げをしたんだ」
――それが彼らと一緒に撮った最期の写真だ。
穏やかな口調ではあったが、切なそうに細めた瞳が哀しげに揺れているのを目にしただけで、すべてが理解できるような気がしていた。
紫苑はもとより、遼平も、さすがにこれには返答のひと言も返せないまま、ただただ驚いたような表情で立ち尽くすしかできないでいる。倫周はひとたびふうーっと大きく深呼吸を入れると、アルバムの中にあった一枚の写真を取り上げて、やはり穏やかな声音で先を続けた。
「これはセルフタイマーで撮ったやつだよ」
そう言って全員が一緒に写っているものを二人の前へと差し出した。
「左端から僕と帝斗、それに白夜。その隣に写ってる学ラン姿の二人は『清水剛(しみず ごう)』君と『橘京(たちばな きょう)』君といってね、彼らは四天学園だから君らの先輩ってことになるね。そして僕らの前に座ってる君らにそっくりなこの二人が『かねさき りょうじ』と『いちのみや しづき』っていうんだ。彼らも四天出身だよ」
あまりにも穏やかに、だがそれ以上に当時を懐かしむように切なげに瞳を細めながらそう説明する倫周の様子に、酷く胸の逸るような心持ちにさせられてならなかった。何ともいいようのないその”間”がいたたまれなくて、
「かねさきりょうじと……いちのみやしづき? それってどんな字?」
遼平が思わずそう訊いた。
『鐘崎遼二、一之宮紫月』
倫周は胸ポケットからペンを取り出して、写真の裏にそう書いてみせた。それを見るなり遼平らはもっと瞳を丸くした。そっくりとはいかないまでも似通ったような文字の羅列、それぞれに一文字づつ同じ漢字があることに気がついた。
遼二に遼平、紫月に紫苑――
これでは確かに生まれ変わりだと言われても仕方がない程に似ている。
「……ッ! ちょっ……ッ!? これって名前まで似てんじゃん……」
あまりの驚きに、その先の言葉が詰まってしまう。二人共に無言のまま互いを見つめ合い、しばしの間、沈黙が漂う。倫周は手にした集合写真をテーブルの上へと置くと、静かに先を続けた。
「僕らはね、通っていた学園はそれぞれ違ったけれど、とても仲が良かったんだよ。さっき言った『僕が粟津の実子じゃない』っていうのも本当なんだ。もともとはそれがきっかけで皆と知り合ったようなものなんだよ」
そう言って更に瞳を細めてみせた。
「僕は幼い頃に両親を失くしていてね、伯父夫婦の家に引き取られて育ったんだ。だけどその伯父からちょっとした家庭内暴力のようなものを受けていて……それがきっかけで家を飛び出した僕を助けてくれたのが遼二たちだったんだ。怪我をしていた僕を偶然見つけてくれてね、随分と世話になったものだよ。それからいろいろあって、もう伯父の家には帰りたくないとダダをこねる僕のことをすごく心配してくれて、真剣に相談に乗ってくれたりしたんだ。結局は僕の学園の先輩だった帝斗の御父上が僕を養子に迎えてくれることになったんだけど……。その帝斗と白夜の両親同士が懇意にしていたものだから、自然と皆で会ったりする機会が増えていったんだよ」
まるで独白のように自らの身の上を語り出した倫周に、何の相槌も返せないままで二人はしばし話に聞き入り、押し黙ってしまった。そんな様子を気遣うように倫周は少し瞳をゆるめながら、
「そういえば四天学園と桃稜学園はちょっとした因縁関係なんだってね? 今でもそうなの?」
今までのしめやかな雰囲気を振り払うような悪戯めいた笑顔を浮かべてそんなことを訊く。そして更に明るい感じを装って微笑むと、
「なんでも白夜は桃稜学園で番格といわれていたそうだよ? 『桃稜の白虎』なんて異名をとった程で、一目置かれてたみたい。それに遼二と紫月の方は四天の番格だったんだって。だからよくいがみ合ってて、喧嘩とかもしてたことがあったみたい」
まるで『そんなところまで君らと似てるよね』とでもいうように、クスッと声に出して笑ってみせた。
「君らも高校では結構なやんちゃ坊主らしいじゃない? 隠れて煙草吸ったり喧嘩したり、結構ワルっぽいことばかりして困ったもんだって白夜がそう言ってたよ?」
これにはさすがに深刻そうに黙ってしまっていた二人も驚いたように顔を上げ、苦笑を誘われながらもようやくとその表情に明るさを取り戻す。
氷川が桃稜で番を張っていただなんて、あまりにも写真の中のいでたちそのもので、何だか可笑しい。その氷川とやり合っていたのが自分たちにそっくりな写真の二人だということにも何故だか胸が締め付けられるようだ。
何故そんな気持ちにさせられるのか、写真の中の彼らが今の自分たちと同じように過ごした日々が鮮明に頭の中に浮かぶようで、それは懐かしくもあり、酷く切なくも思えて仕方ない。思わず写真に写るその当時に引き込まれてしまうようだった。
そんな思いを裏付けるかのように、四天の学ラン姿のその二人を指さして倫周は言った。
「遼二が亡くなったのはこの日から少ししてのことだった。バイクの事故だったよ。その半年後、まるで彼の後を追うようにして紫月も事故で亡くなったんだ」
一見したところ、案外感情の起伏が豊かそうに思えるこの倫周が、まるで当たり前に、ともすれば平然とした調子でそんなことを口にする様子が、過ぎ去った年月を物語ってもいるように感じられて、遼平と紫苑の二人はしばし言葉を失ってしまった。
かける言葉など思い浮かぶはずもない。
今の今までふてくされた感情をあらわにしていた紫苑も絶句したまま、だがやはり何かを口にしなければと焦るのか、ようやくの思いで開いた口が、
「事故……」
乾いた喉を無理矢理押し広げて、掠れた声を振り絞って、それだけ言うのがやっとだった。倫周は少し切なげに笑みをたずさえながら、
「君ら、今幾つだい?」
そう訊いた。
「え? ……あ、えっと……俺はついこの前十八……ンなったばっか……」
「俺も同じ……。俺ら同学年(タメ)だから十八です。あ、けど俺の方が半年くらい誕生日早えけど……」
それだけ聞くと、
「ほら、ね? ちょうど歳の頃も合ってる。だからかな? 白夜が……いや僕らもだけど……君らがあの二人の生まれ変わりなんじゃないかって、ついそんなふうに思ってしまうんだ」
倫周はそのまま窓際へと歩み寄ると、フイと瞳を細め、宵闇に浮かんだ月を見上げた。
あの頃、僕らは共にいた。
共に笑って、共にはしゃいで、そして喧嘩して、また仲直りして、そんな当たり前の日常が本当に至福だと思っていた。
どんなふうに僕らが出会って、どんなふうにあの頃を過ごしたのかを、君たちにも見せてあげられたらいいのに――